全7179文字

 変換効率が25%超といったペロブスカイト太陽電池(PSC)はまだ数mm角といった極小のセルでのチャンピオンデータにすぎない。大面積化すると急に変換効率が低下してしまうのがPSCの大きな課題の1つである。この課題の解決では、パナソニックや東芝といった日本の企業が世界の競合他社を大きくリードしており、数百cm2の大面積モジュールでも20%が目前に迫ってきた。ただし、最近はこの大面積モジュールでも中国企業が猛烈に性能を高めてきている。

 ガラス基板ベースのモジュールを大量生産する方針の中国Wonder Solar(万度光能)に対し、中国DaZheng(大正微納科技)は、フレキシブルなPETシートを基板にする方針(図5)。同社の技術顧問は、PSCを最初に開発した桐蔭横浜大学 特任教授の宮坂力氏注2)である。宮坂氏は、「PSCは結晶Siと戦うのではなく、軽量フレキシブル性を生かした独自の強みを追求すべき」が自説だ。

注2)宮坂氏は「DaZhengでの役割は技術顧問で、事実上名前を貸しただけ」とするが、DaZheng側は宮坂氏を同社の「首席科学家」と呼び、同社の箔付けに利用している格好だ。
(a)SAULEのメートル級のセル
(a)SAULEのメートル級のセル
[画像のクリックで拡大表示]
(b)東芝のフレキシブルモジュール
(b)東芝のフレキシブルモジュール
[画像のクリックで拡大表示]
(c)積水化学工業の30cm幅のR2R製造装置
(c)積水化学工業の30cm幅のR2R製造装置
[画像のクリックで拡大表示]
(d)(c)で製造した「基本パネル」
(d)(c)で製造した「基本パネル」
[画像のクリックで拡大表示]
(e)大正微納科技のセル
(e)大正微納科技のセル
[画像のクリックで拡大表示]
図5 量産当初から軽量大面積でフレキシブルの強みを追求
PSCの事業化当初からフレキシブル基板での量産を想定するメーカーとその試作セルなど。Saule Technologiesはまず約1m角のセルを製造し、それを切り分けてモジュールにする(a)。東芝は1ステップでのメニスカス塗布法、積水化学工業は2ステップでのダイコート法と製造プロセスはやや異なる(b~d)。積水化学工業は1m幅のセル開発にも取り組むとする。中国の大正微納科技は創業が2012年と歴史が浅いが、桐蔭横浜大学 特任教授の宮坂力氏を顧問とし、2022年にもフレキシブルなPSC製品を出荷する計画だ(e)。いずれも、軽量薄型で大面積という特徴を生かした用途を想定する。(写真:各社)

 同様に、軽量フレキシブルという強みを全面に押し出しているのが、量産で先陣を切ったポーランドSaule Technologies、そして東芝と積水化学工業だ。3社は「重量制限のためにこれまで設置できなかった耐荷重性の低い屋根などに展開したい」(東芝)という点で方向性が一致している。

 一般的な結晶Si太陽電池のパネルは15kg/m2前後と重く、一定以上の強度のある屋根でないと設置できない。設置可能な場合も、架台の取り付けなどに大掛かりな工事が必要になるケースが多い。

 最近になってSiウエハーを極限まで薄くし、封止もガラスから樹脂シートにして軽量化を図った結晶Si太陽電池の製品も出てきているが、それでも2.8kg/m2にはなる。これに対して、Sauleのモジュールは0.5k~0.7kg/m2と大幅に軽い。

 量産工程の開発については積水化学工業が他社を一歩リードする。Sauleが1m角の大面積とはいえ、シートtoシート(S2S)で製造を進めるのに対し、積水化学工業はより高速の量産に向いたロール・ツー・ロール(R2R)での製造装置を新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトで開発した注3)、2)、3)。しかもこれまで30cm幅だったロールの幅を、今後は1m幅に広げる方針という。

注3)米エネルギー省所轄の研究機関National Renewable Energy Laboratory(NREL)によれば、同じ変換効率16%のPSCを量産する場合、ロール・ツー・ロール(R2R)は、シート・ツー・シート(S2S)の約1/2の製造コストで済むという3)。具体的には、R2Rであれば、1W当たり15~17米セント/Wで製造可能だが、S2Sでは30~33米セント/Wかかるという。

 東芝は、製造プロセスの詳細を明かしていないが、2021年9月に製造工程を見直して塗布速度は従来の30倍以上、生産のスループットは50倍以上になったと発表した1)