変換効率が25%超といったペロブスカイト太陽電池(PSC)はまだ数mm角といった極小のセルでのチャンピオンデータにすぎない。大面積化すると急に変換効率が低下してしまうのがPSCの大きな課題の1つである。この課題の解決では、パナソニックや東芝といった日本の企業が世界の競合他社を大きくリードしており、数百cm2の大面積モジュールでも20%が目前に迫ってきた。ただし、最近はこの大面積モジュールでも中国企業が猛烈に性能を高めてきている。
ガラス基板ベースのモジュールを大量生産する方針の中国Wonder Solar(万度光能)に対し、中国DaZheng(大正微納科技)は、フレキシブルなPETシートを基板にする方針(図5)。同社の技術顧問は、PSCを最初に開発した桐蔭横浜大学 特任教授の宮坂力氏注2)である。宮坂氏は、「PSCは結晶Siと戦うのではなく、軽量フレキシブル性を生かした独自の強みを追求すべき」が自説だ。
同様に、軽量フレキシブルという強みを全面に押し出しているのが、量産で先陣を切ったポーランドSaule Technologies、そして東芝と積水化学工業だ。3社は「重量制限のためにこれまで設置できなかった耐荷重性の低い屋根などに展開したい」(東芝)という点で方向性が一致している。
一般的な結晶Si太陽電池のパネルは15kg/m2前後と重く、一定以上の強度のある屋根でないと設置できない。設置可能な場合も、架台の取り付けなどに大掛かりな工事が必要になるケースが多い。
最近になってSiウエハーを極限まで薄くし、封止もガラスから樹脂シートにして軽量化を図った結晶Si太陽電池の製品も出てきているが、それでも2.8kg/m2にはなる。これに対して、Sauleのモジュールは0.5k~0.7kg/m2と大幅に軽い。
量産工程の開発については積水化学工業が他社を一歩リードする。Sauleが1m角の大面積とはいえ、シートtoシート(S2S)で製造を進めるのに対し、積水化学工業はより高速の量産に向いたロール・ツー・ロール(R2R)での製造装置を新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトで開発した注3)、2)、3)。しかもこれまで30cm幅だったロールの幅を、今後は1m幅に広げる方針という。
東芝は、製造プロセスの詳細を明かしていないが、2021年9月に製造工程を見直して塗布速度は従来の30倍以上、生産のスループットは50倍以上になったと発表した1)。