「“市ヶ谷”ブランドの基本原則は隠さない・迷わせない・押し付けない」「社会人になって初めて契約するなら“市ヶ谷”で間違いないという認知の獲得を目指す」「20ギガバイトの月間データ通信量は“市ヶ谷”のメインメッセージ」――。
“市ヶ谷”とは、実はNTTドコモが2021年3月に提供を始めたオンライン専用ブランド「ahamo」の、社内コードネームである。ahamoは5分以内の国内通話がかけ放題なうえ、20ギガバイトのデータ通信量が付いて月額2970円(税込み)。ドコモは他社の度肝を抜く新料金で攻勢をかけ、見事に成功を収めた。約1カ月後の4月末には契約数が100万件を突破するなど、ドコモとしては久々となる大ヒットサービスになった。
だが、足元ではahamo効果が早くも薄れてきたとの指摘が株式市場関係者から出ている。ドコモはahamoの契約数について、8月6日の決算説明会で180万件超としていたのに対し、11月10日の決算説明会での開示は200万件超。契約数の獲得ペースが明らかに落ちている。オンライン専用ブランドは同一の携帯電話会社内の乗り換えが中心との調査結果もある。そのためドコモの純増数の推移を見ても、劇的に増えてはいない。一時はMNP(モバイル番号ポータビリティー)で転入超過を記録したとドコモの経営陣は誇っていたものの、最近では言及しなくなった。解約率も前年同期より悪化している。
ドコモの井伊基之社長は2020年12月にahamoを発表した際、「3番手ではなく、トップに返り咲きたい」と力強く宣言した。足元では悲願成就に向けて、雲行きが徐々に怪しくなっている。
楽天の目線は「四半期で100万純増」
ドコモにとって試練となりそうなのが、2022年の春商戦である。新規参入の楽天モバイルが、次の春商戦で猛攻を仕掛けてくるとのシナリオが関係者の間で浮上しているからだ。
楽天モバイルは基地局の整備を急ピッチで進め、「2重投資状態」で同社財務の悪化を招いているKDDIとのローミング(相互乗り入れ)の早期打ち切りを目指している。KDDIとのローミングの契約更新は10月と4月の年2回。2021年10月にはローミングの打ち切り地域をそれまでの16都府県から39都道府県に広げると発表した。
次の更新となる2022年4月にはローミングの打ち切りがさらに拡大し、財務面の余裕が出てくるだろう。この効果が実際に出てくるのは来期(2023年3月期)とはいえ、これを待たずに楽天モバイルが、年間最大の春商戦に照準を合わせて2月や3月に新たな施策を打ち込んでくるとの見方が有力視されている。「楽天モバイルの純増数は現状、四半期で50万件前後だが、彼らの目線は四半期で100万件。再びアグレッシブに加入者の獲得を進めるのではないか」と、シティグループ証券の鶴尾充伸ディレクターは指摘する。