2022年1月にNTTコミュニケーションズ(NTTコム)とNTTコムウェアを子会社化することで誕生する新生NTTドコモグループ。減益基調となっている通信事業の代わりに新たな成長軸となるのが、法人事業と非通信事業に当たるスマートライフ事業だ。
同社の井伊基之社長は、25年度に法人事業の売上高を2兆円以上に拡大する目標に加え、スマートライフ事業の売上高も倍増させる計画をぶち上げた。スマートライフ事業は、法人に強いNTTコムとのシナジー(相乗効果)が少なく、ドコモ単体で成長の道筋をつける必要がある。目標達成に向けて業界内では、成長余地の大きい金融・決済事業のテコ入れや、大型買収の可能性が取り沙汰されている。
「微妙な質問なので、ストレートに答えると差し障りがある。いわゆるM&A(合併・買収)や出資というものになる。いくつか進めているものがある」――。
21年10月に開催した新生ドコモグループの中期戦略に関するアナリスト説明会において井伊社長は、スマートライフ事業をいかに伸ばしていくのかという質問に対して、このように言葉を濁した。
国内通信事業者にとって、次の成長の主戦場が非通信と法人事業であることは間違いない。新生ドコモグループの法人事業成長へ向けた道筋は、ある意味明確だ。大企業に強く、ソリューション開発能力に長けたNTTコムの力を生かして、「もしもしはいはい」の音声通話サービスがメインだったドコモの法人事業をテコ入れする。NTTコムとドコモの設備統合によるコスト削減効果も、利益創出の大きなドライバーになる。
一方、ドコモ単独で多くを進める必要があるスマートライフ事業の売上高倍増へ向けた道筋は、はっきりしない。井伊社長は21年10月の説明会で「メディカルやXRなど新規領域の拡大を進める」と説明した。
実際、ドコモはこれらの分野への取り組みを強化している。21年4月にオンライン診療システムを手掛けるメドレーと、21年11月にはVR(仮想現実)イベントを手掛けるHIKKY(東京・渋谷)と資本業務提携を結んだ。だがこのような新規分野は現状では規模が小さく、当面は「ニッチにとどまるのではないか」(シティグループ証券の鶴尾充伸ディレクター)というのが、大方の株式市場関係者の見立てだ。
22年3月に新たに提供開始する一般家庭向け電力サービス「ドコモでんき」も、スマートライフ事業倍増に向けた施策の1つだ。通信各社の中で最後発の電力事業参入であるものの、ドコモは同事業で初年度150万契約、23年度には1000億円規模の売上高にしていきたい考えを示している。
スマートライフ倍増で売り上げ1.2兆円規模に
ドコモのスマートライフ事業は現在、売上高が6162億円で営業利益が594億円(いずれも20年度)という規模だ。倍増という目標は、この売上高を1.2兆円規模に拡大することを意味する。
スマートライフ事業の主軸は、dTVやdマガジンなどのコンテンツ系サービスと、dカードやd払いなどの金融・決済サービスの2つ。「ここに来て、金融・決済系サービスがかなり伸びている。一方でコンテンツ系が伸び悩んでいる」とドコモの廣井孝史副社長は明かす。
1.2兆円という売上高規模は、ドコモの現状からすると高い目標だ。しかしライバルとなるKDDIやソフトバンク、楽天グループと比べると、各社の非通信に相当する事業は既に1.2兆円規模に拡大している。各社でセグメントの定義が異なるのであくまで参考値となるが、KDDIの非通信事業に相当するライフデザイン領域は、売上高が約1兆3000億円(20年度、以下同)だ。ソフトバンクの非通信事業に相当するヤフー事業も、売上高が約1兆2000億円という規模である。
新規参入の楽天グループは、電子商取引(EC)や金融・決済事業が本業だ。これらを非通信事業として捉えると、売上高は既に約1兆4000億円(20年度)という規模に達している。
ドコモはなぜ他社の後塵(こうじん)を拝しているのか。