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 量子コンピューターの実用化が10年以上先だとしたら、なぜ今、量子コンピューターについて知っておく必要があるのでしょうか。答えは、量子コンピューターを使いこなし、十分な性能を引き出すためには相当な準備が必要だからです。量子コンピューターの動作原理や使い方は、普通のコンピューターと大きく違います。その特徴に早くから慣れておかないと、本格的な量子コンピューターが登場したときに、真価を発揮させられないのです。

 量子コンピューターの開発企業の間では、将来の本戦に向けたポールポジション争いが早くも過熱しています。まだまだ少ない量子ビット数の装置を積極的に公開する理由はここにあります。将来のユーザー候補に試しに使ってもらうことで、新しい用途のヒントを見つけ、利用上の課題をあぶり出したいのです。

 量子コンピューター向けのソフトウエアの開発も盛り上がってきました。常識はずれの高性能を確保するには、量子コンピューターの特徴を最大限に生かした計算手順、すなわちアルゴリズムが必要です。

 朗報は、アルゴリズムの開発は量子コンピューターのハードウエアがなくてもできることです。量子コンピューター向けのアルゴリズムで特に有名な「ショアのアルゴリズム」は1994年に発見されました。まだハードウエアが影も形もなかった時代です。実は話が逆で、こうしたアルゴリズムによって量子コンピューターのすごさが知られ、開発の動機になったのです。

 ちなみにショアのアルゴリズムが有名なのは、現在インターネットで使われている標準的な暗号を簡単に解いてしまう可能性があるからです。これが現実になるには高性能の量子コンピューターが必要なので、危機的な状況が来るとしても10年以上先です。それでも、量子コンピューターに対抗できる強い暗号を準備する動きが急速に進んでいます。早めの対策を怠ったばかりに痛い目に遭うわけにはいかないのです。

 今から量子コンピューターになじんでおく理由も、これと同じです。本格的なハードウエアが登場してから慌てて対応しても、後手に回るのは明らかです。

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