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 医療費削減への期待もあり、自分の健康を自分で管理する「セルフケア」に注目が集まっている。セルフケアを実践する人をデジタル技術で支援する取り組みが数多く登場しているが、セルフケアを始める前の段階からの支援も重要だ。

 例えば、不調を感じる前から自身の健康に関心を持っていれば早い段階での対応が可能になる。不調を感じたときに医療機関の受診が必要かどうかを気軽に相談できれば、不必要な受診を減らすこともできる。こうした治療を始める前のフェーズを、アプリを通じて支援する動きが広がっている。

患者と生活者の両方に貢献

 医療用医薬品や一般用医薬品(OTC医薬品)の点眼液を数多く手掛けている参天製薬は、2021年にスマートフォンアプリを相次いで公開した。1月公開の「かゆみダス~目のかゆみ注意報~」と12月公開の「瞳うるるスキャン」だ。気軽に利用できるスマホアプリを通じて、目のヘルスケアに関心を持ってもらう狙いがある。

「瞳うるるスキャン」の結果画面。目の潤い度が3段階で評価される
「瞳うるるスキャン」の結果画面。目の潤い度が3段階で評価される
(出所:参天製薬)
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 かゆみダスは花粉症シーズンに予測される花粉飛散量や気象情報を分析することで、目のかゆみの注意レベルを知らせるアプリだ。「目のかゆみを感じて目薬を使う人が多いが、それは目のかゆみを伴う生活をしているということ。生じたかゆみを抑えるだけでなく、かゆみを生じさせないということを目指した」(開発を担当した眼科事業部 眼科疾患領域マーケティンググループ 前眼部チームの加賀寛人氏)という。

 同社は症状が出る前から点眼する「プロアクティブ点眼」を推奨しているが、かゆみがないときにも点眼するという考え方がなかなか広まらないことに課題を感じていたという。かゆみダスには点眼のタイミングをリマインドとして通知する機能もあり、意識付けにつながる可能性がある。

 もう一方の瞳うるるスキャンは目の潤い度をセルフチェックするアプリで、独自に構築した人工知能(AI)を分析に用いるのが特徴だ。利用者は自覚症状などを答えた後、アプリの指示に従いスマホのカメラで目の動画を5秒間撮影する。結果は「高」から「低」の3段階で示され、結果に応じて医療機関での診療内容やおすすめのOTC医薬品などが紹介される。

 動画を撮影する際は日中の明るい窓辺に立つことが指示されるが、これには明るい環境で目に周囲の光景を映り込ませる意味合いがある。AIが分析するのはこの目に映り込んだ光景で、例えば撮影中のスマホの輪郭が目にくっきりと映り込んでいるかぼやけているかを識別する。反射像がぼやけている場合は涙の状態が不安定な可能性があり、潤い度が低いと判断される。

「瞳うるるスキャン」の分析イメージ。涙の状態が不十分だと目に映り込むスマホの縁やブラインドカーテンがゆがむ(ピンクの枠線内)
「瞳うるるスキャン」の分析イメージ。涙の状態が不十分だと目に映り込むスマホの縁やブラインドカーテンがゆがむ(ピンクの枠線内)
(参天製薬の提供画像を基に日経クロステック作成)
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 こうしたアプリを開発した背景について、同社でアプリの普及に携わる薬粧事業部マーケティンググループの堀田園氏は「生活者と患者は行き来するもので、生活者は患者になり得るし患者も治れば生活者になる。薬で患者に貢献するだけでなく、疾患啓発で生活者に(疾患の存在や自分の健康状態について)気付いてもらうことも大事」と説明する。かゆみダスと瞳うるるスキャンは対象としている症状が異なるため現在は個別に展開しているが、将来的にはそれらを束ねて1つのプラットフォームとすることも見据えているという。