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 体調が悪化して医療機関を利用する前に、自分の健康を自分で管理しよう――セルフケアと呼ばれるこうした考え方が、世界で広がりつつある。ただし、個人がどのように対処すればいいのか、市販の薬を買うなら何を選べばいいのかといった悩みも多い。デジタル技術などを活用することでこうした課題を解決し、セルフケアを浸透させようとする動きが活発化してきた。医療の効率化につながり、増大を続ける医療費の抑制につながる可能性を秘めている。

デジタル技術でセルフケアが充実すれば医療の効率化につながる
デジタル技術でセルフケアが充実すれば医療の効率化につながる
(取材内容を基に日経クロステック作成)
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医療費増大の抑制に期待感

 世界保健機関(WHO)はセルフケアについて、「個人、家族、コミュニティーが自分の健康を促進し、病気を予防し、健康を維持し、医療従事者の支援の有無にかかわらず病気や障害に対処する能力」と定義している。世界では必要な医療サービスの提供が課題となっており5人に1人が人道的危機に直面していることから、セルフケアの重要性が指摘されている。

 日本においても注目が集まるセルフケアだが、その背景にはグローバルな課題以外にも日本特有の事情がある。日本OTC医薬品協会の上原明会長(大正製薬ホールディングス代表取締役社長)は2021年7月に開かれた「セルフメディケーションの日シンポジウム」において、「高度な医療の発達と高齢化により財政的な問題に直面している。国民皆保険制度を守るためには医療の効率化が必要だ。自助・共助・公助を使い分け、自分の健康は自分で守るという意識が大切になってくる」と指摘した。

 医療機関に行くことなく自分で体調をコントロールできれば医療費の削減につながるという考えのもと、日本でも国を挙げてセルフケアを推進している。代表的なのが2017年に始まった医療費控除の仕組み「セルフメディケーション税制」である。セルフメディケーション(自主服薬)とはセルフケアの中でも特に自分で薬を服用して体調を管理することを指し、ドラッグストアなどで買える一般用医薬品(OTC医薬品ともいう)を活用することが多い。セルフメディケーション税制では、対象となる種類のOTC医薬品を購入した際にその費用について所得控除を受けることができる。

 セルフメディケーション税制で対象となるOTC医薬品の種類は限られているものの、OTC医薬品を活用すること自体には税制面以外にも医療機関を受診する手間が省けるというメリットがある。しかし一方で、体調の悪いときにドラッグストアなどの店頭まで足を運び、膨大な製品の中から症状に合ったものを選び出すのは難しいといった課題もある。こうした課題をデジタル技術で解決しようというわけだ。