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 2022年、アジャイル開発は「ソフトウエアの開発手法」の域を超え、「ビジネスサービスを開発・改善するための経営手法」として採用されるようになる。新型コロナウイルス禍やDX(デジタルトランスフォーメーション)の隆盛でビジネス環境が大きく変わるなか、「顧客価値を高めるために企画、実行、学習のサイクルを継続的かつスピード感を持って繰り返す」というアジャイルの「原則」が、ソフトウエア開発の領域にとどまらず組織の様々な活動において使われるようになる。

市場の変化に柔軟かつ迅速に対応

 アジャイル開発はソフトウエアの開発手法として近年注目を集めてきた。あらかじめ全ての開発工程の計画を立て、要件定義、設計、開発、テストの工程を順にこなし、最後にリリース(本稼働)するというウオーターフォール型の開発手法と異なり、アジャイル開発は機能単位で計画からテストまで進めて完成させ、そのサイクルを何度も繰り返しながら、全体を完成させる。小さなサイクルを繰り返すため、顧客の要望変更や市場の変化に柔軟かつ迅速に対応できるのが特徴だ。

図 ウオーターフォール開発とアジャイル開発の違い
図 ウオーターフォール開発とアジャイル開発の違い
仕様変更を受け入れ、短期間でリリースを繰り返す
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 アジャイル開発の大まかな進め方は上記の通りだが、細かく見ると複数の進め方がある。現在最も普及している手法が「Scrum(スクラム)」だ。ウオーターフォール開発はシステム開発の規模は大きくてもエンジニア1人ひとりの役割は分かれている。これに対してスクラムはチーム全員が一丸となって要件定義からテストまでを1~2週間といった短い期間(スプリント)で反復しながらプロジェクトを進める。

 顧客の代表者を含め3~10人の少ないメンバーでスクラムチームをつくり、密にコミュニケーションを取りながら顧客にとっての価値を達成するという目標に向かう。チーム全員が決定に関われるように各種の定期イベントを進めることで、1人ひとりが自律性を持ちながらチームのために活動する「自律分散型」のチームを目指す。

 現在、スクラムはソフトウエア開発の領域だけでなく、新規サービスの創出や組織づくりといった分野でも高い効果を見込めるとして、注目を浴びている。マーケティングや人事、総務などIT部門でない組織にアジャイルの取り組み方を導入すれば組織全体の働き方を変えられるというわけだ。

 既に米アマゾン・ドット・コムは3300ものスクラムチームを立ち上げており、会社としてアジャイルな働き方を実践しているという。アジャイル開発はソフトウエア開発の手法として捉えられがちだが、チームや組織の生産性を高め、組織文化を醸成するマネジメントの方法論でもある。2022年は様々なビジネス分野で活用が進むとみられる。

 アジャイル開発のコンサルティングなどを手掛けるグロース・アーキテクチャ&チームスの鈴木雄介社長は、「日本でも一部の先進企業はアジャイル開発をソフトウエア開発だけではなく、企業経営にも生かそうとしており、その動きは活発になっている。2022年以降により加速するだろう」とみる。

 新型コロナウイルスが世界でまん延し、あらゆる業界で従来のビジネスのやり方が通用しなくなり、企業は変化を余儀なくされた。その際に経営環境の変化に素早く対応できるアジャイル型組織が望ましいことが認識され、アジャイルを取り入れようとする企業の動きが顕著になっているという。

 「海外の金融機関など、エンジニアを企業経営の核に据えている企業ほど、事業部門や経営陣にもソフトウエアの文化が浸透しており、アジャイルの導入が進んでいる」(鈴木社長)。