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 量子力学の原理を用いて、従来の古典コンピューターが苦手とする問題を高速に解くことが期待されている量子コンピューター。2022年は実用化に向け、企業を巻き込んだ研究が加速する。

 量子コンピューターは過去、注目度の高さに技術の進歩が追いつかないことによる「冬の時代」を経験している。だが足元のブームは量子時代の到来に直結している。量子コンピューターの実用的な用途は古典コンピューターのそれを上回るとする「量子有用性」の概念が定着し始めているためだ。

 2021年7月27日、東京大学と日本IBMが日本初のゲート型商用量子コンピューターを川崎市で稼働させた。同機の占有使用権を持つ東大が事務局を務め、2020年7月30日に設立した「量子イノベーションイニシアティブ協議会(QII)」で共同研究を始めている。QII正会員にはトヨタ自動車や三菱UFJフィナンシャル・グループといった名だたる企業が名を連ねる。

表 量子コンピューターを活用・開発する取り組み
民間企業がブームを積極的に後押しする
表 量子コンピューターを活用・開発する取り組み
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 2021年9月1日には東芝やトヨタ、住友商事らが量子技術の産業応用を促進する協議会「量子技術による新産業創出協議会(Q-STAR)」を設立した。量子コンピューターや量子暗号通信といった量子技術を材料開発や金融技術に生かすことを目指している。実用化に向けた機運は研究参画企業も含め2022年に一段と高まるだろう。

 量子コンピューターは1994年、素因数分解アルゴリズムの発明で、各国が人材や資金を投入する第1次ブームが巻き起こった。だが現在も広く使われている公開鍵暗号を無力化するだけの能力を持った量子コンピューターの開発には数十年かかりそうだと分かると、研究開発に急ブレーキがかかり「冬の時代」を迎えた。

 足元の第2次ブームは2011年に始まった。カナダのDウエーブシステムズが「組み合わせ最適化問題」に用途を絞った量子アニーラ技術を使った商用機を発表。その後米IBMや米グーグルらが開発したゲート型量子コンピューターをクラウド利用できる環境が広がったことで加熱している。第2次ブームは様々な業種の企業が共同研究に参画し、積極的にブームを支える点が第1次ブームと異なる。