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 2022年は全国約1700の地方自治体の情報システム標準化・共通化に向けた動きが本格化する。コスト削減や住民サービス向上につながるとして、政府は約2000億円の予算を投じて標準化を進める。だが、実現への課題が山積している。

コスト削減、住民サービス向上、職員業務効率化が狙い

 全国約1700自治体が毎年5000億円以上を支出している自治体情報システム。政府が費用を全額負担し、2025年度末を期限として原則すべての自治体に標準化・共通化を求めている。さらに政府は、自治体や政府が共同利用するマルチクラウドのシステム基盤「ガバメントクラウド」を整備し、自治体の標準準拠システムを同基盤上にできるだけ移行させる。

 政府の狙いは3点ある。1点目は、機能の標準化により自治体ごとに個別開発の必要がなくなりコストを削減できる。2点目は、行政手続きオンライン化やワンストップサービスなどを進めやすくなり住民サービスが向上する。3点目は自治体職員の業務効率を高められる。標準化により、組織をまたいだデータ連携を進めやすくなるためだ。

 具体的な進め方はこうだ。これまで自治体ごとにバラバラで開発・運用してきたシステムのうち、基幹システム17業務と戸籍など3業務を合わせた20業務について、政府が標準仕様を策定する。自治体は2025年度末までに標準準拠システムへの移行を完了する。

 自治体の業務システム開発を手掛けるITベンダーは今後、標準仕様に準拠した基幹業務アプリケーション(アプリ)などを開発してガバメントクラウド上に構築する。自治体はITベンダーと利用契約を結んでガバメントクラウド上のアプリに基幹業務システムを移行する。

自治体ごとにバラバラに開発・運用していた自治体システムを、標準化後は、標準準拠システムに移行する。移行後はできるだけガバメントクラウド上のアプリケーションを利用する
自治体ごとにバラバラに開発・運用していた自治体システムを、標準化後は、標準準拠システムに移行する。移行後はできるだけガバメントクラウド上のアプリケーションを利用する
デジタル庁と総務省の資料を基に日経クロステック作成
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 ガバメントクラウドを利用することで、自治体はサーバーやアプリを自前で用意する必要がなくなり、コスト削減につながる。新サービスの導入や法令改正などの際にも、迅速かつ柔軟に機能を拡張できる。

 職員は業務をオンラインでこなせるようになり、組織を越えたデータ連携も容易になる。また、自治体ごとにセキュリティー対策や運用監視を行う必要がなくなるとしている。

 だが、政府のもくろみどおりの目的を果たすためには、越えるべき壁は高い。今後システムを移行し運用することになる自治体職員の声を聞くと、3つの課題が浮かび上がってきた。

自治体規模に応じた標準仕様の作成を

 1点目が、自治体の人口規模や特徴に合わせてどう標準化を進めるかと言う課題である。現在政府が策定中の標準仕様は一律のもので、自治体規模ごとの対応までカバーされていない。

 自治体情報システムに詳しい、埼玉県戸田市企画財政部次長兼デジタル戦略室長の大山水帆氏は「(現状の)標準仕様は自治体規模への対応が不十分で、業務間や組織間での情報連携がスムーズにできない可能性がある」と指摘する。その上で、自治体規模に応じて追加で利用できる標準仕様の作成を提案している。

 具体的には、必要最低限の項目を「メインセット」として標準仕様を作成した上で、大規模自治体や中規模自治体が追加で必要な項目については、「サブセット」として追加で標準仕様を作成する。自治体規模に応じて、これらを組み合わせて利用する。

現状は必要最低限の項目のみ標準仕様を政府が策定する方針だが、これに対して大山氏は最低限の項目を「メインセット」として標準化した上で、自治体規模に応じた「サブセット」としての標準仕様作成を提案している
現状は必要最低限の項目のみ標準仕様を政府が策定する方針だが、これに対して大山氏は最低限の項目を「メインセット」として標準化した上で、自治体規模に応じた「サブセット」としての標準仕様作成を提案している
出所:大山水帆氏
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 また、全自治体一律で2025年度末までとする移行期間にも自治体から注文が付いた。全国20の政令指定都市からなる指定都市市長会は「(2025年度末以降の)移行期間を設けてほしい」と要望した。また、全国の62市からなる中核市市長会は2025年度末に完了できない場合も含めて、全額国費負担による財政措置を求めた。

 要望の背景には、大規模自治体の事情がある。例えば政令市などでは、現状運用している情報システムの使い勝手を高めたり運用の事故を防いだりするために、独自のカスタマイズをしているケースが多い。

 標準準拠システムへの移行では、こうしたカスタマイズを極力減らす方針だ。そのため単にシステム移行だけでなく、業務フローの変更や業務改善(BPR)を実施した上で、職員研修をする必要が出てくる。そのため、住民サービスに支障が出ないように安全にシステム移行するには、2025年度末までの完了は困難との懸念を示した格好だ。

コスト削減につながらない懸念

 2点目はガバメントクラウドの利用だけではコスト削減につながらない懸念である。

 ガバメントクラウド上に標準準拠システムを移行することで、オンプレミスよりも安価に運用できるというのが政府のもくろみだ。デジタル庁の担当者は「一般的にはオンプレミス環境からガバメントクラウド環境に基幹業務システムを移行することで運用コストを3割削減できると考えている」と話す。

 一方、ガバメントクラウドの先行事業に参加している神戸市の担当者は「クラウドへの移行だけで費用対効果を出すのは難しいのではないか」と話す。クラウド障害時でも住民サービスに支障が出ないよう、バックアップのシステムを用意するなどして可用性を高める必要が出てくるためだ。神戸市は先行事業として「Amazon Web Services(AWS)」上に、自治体業務のベースである「住民記録システム」と、基幹業務システム間の連携機能を備える「共通基盤システム」を移行する検証を行っている。

 クラウド移行に伴うコスト削減効果は限定的とみられる一方で、標準化による長期的なコスト削減効果には期待の声が上がる。前出の神戸市の担当者は「標準化全体として見たときにコストメリットを出さないといけない」と話す。従来は制度や法令が変わるたびに、自治体が個別にシステムを改修する必要があったが、標準化によって少なくとも個別対応の必要がなくなることで、その分コスト削減になると期待している。