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 ソニーグループが電気自動車(EV)の事業化に挑む。スマートフォン王者の米Apple(アップル)がEV開発を模索するとされる中、ソニーは一足先に挑戦状を送りつけた格好だ。秘密裏に進めるアップルに対し、ソニーは協業重視のオープンな姿勢を打ち出して一線を画す。試作車の開発では、スマホ開発で培った経験を生かした。設計と生産を切り離す「水平分業」への取り組みにも注目が集まる。

技術見本市「CES 2022」で発表(出所:ソニー)
技術見本市「CES 2022」で発表(出所:ソニー)
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 「EV業界の動きは速い。(参入の)タイミングは非常に重要だと思っている」(ソニーグループ代表執行役会長兼社長CEOの吉田憲一郎氏)――。

 ソニーはかねてEVの試作車を開発していたものの、事業化には慎重だった。一転して積極的な姿勢を打ち出すのは、EVの本格的な普及が早まっていることが大きい。ソニーがアップルと同様に強く意識する米Tesla(テスラ)。21年の世界販売が約93万台に達した。SUBARU(スバル)や三菱自動車の20年度販売台数を抜き去り、EVがエンジン車に取って代わる存在であることを体現した。

 テスラに続く企業はこれから激増する。新興勢に加えてトヨタ自動車やドイツVolkswagen(フォルクスワーゲン)などの最大手が本格参入する。25年ごろには補助金を考慮したEVとエンジン車の利益水準が同等になるとみられ、EV市場が一気に拡大するとの見方もある。ソニーは、遅くとも25年ごろまでに参入しなければ市場の急拡大に間に合わないと考えているはずだ。

 EV市場の拡大に加えて、ソニーが試作するEV「VISION-S」の開発が順調に進んでいたことも事業化の検討にかじを切る上で大きいだろう。ソニーがオーストリアで公道実験を始めたのは20年12月のこと。企画開始からわずか2年でこぎ着けた。

 その後の実験も順調で、EV開発を率いる川西泉氏(同社常務AIロボティクスビジネス担当でAIロボティクスビジネスグループ部門長)は日経クロステックの過去の取材で「当初の想定から大きく外れていない」と話していた。今回、早くも第2弾のSUV(多目的スポーツ車)版を披露したのも、自動車開発への自信の表れといえる。

新たに披露したSUV試作車両「VISION-S 02」(撮影:日経クロステック)
新たに披露したSUV試作車両「VISION-S 02」(撮影:日経クロステック)
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