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車載OS(基本ソフト)「QNX」を手掛けるカナダBlackBerry(ブラックベリー)は2021年10月、米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス、AWS)と共同開発する車両データ基盤「IVY(アイビー)」の早期アクセス版の提供を始めた。トヨタ自動車傘下のウーブン・キャピタルなどが出資する米Ridecell(ライドセル)がIVYへの参画を決めるなど、実用化への機運が高まっている。

 「ライドセルとの提携は、IVYの実用化に向けた大きな一歩だ」。ブラックベリー Senior Director, IVY Ecosystems, Business DevelopmentのJeffrey Davis(ジェフリー・デイビス)氏は、こう述べる(図1)。

図1 ブラックベリーとライドセルがIVYで提携
図1 ブラックベリーとライドセルがIVYで提携
(a)ブラックベリー Senior Directorのジェフリー・デイビス氏、(b)ライドセルChief Financial Officerのシヴァ・クマール氏。(出所:ブラックベリー、ライドセル)
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 ライドセルは、コネクテッドカーや自動運転車のデータを収集、管理するサービスに強みを持ち、ウーブン・キャピタルやデンソーなどが出資している。トヨタのサブスクリプションサービス「KINTO(キント)」において、スウェーデンや北欧地域のサービス基盤を担うなどの実績もある。一方、IVYは、自動車メーカーやブランド、車種の違いを超えて、さまざまな車両データに簡単にアクセスできるデータ基盤(プラットフォーム)を目指すブラックベリー主導のプロジェクトだ注)

注)ブラックベリーがIVYの構想を発表したのは20年12月である。21年3月には投資基金「IVY Innovation Fund」を設立し、同年6月に電気自動車(EV)の電池をAI(人工知能)で管理する米Electra Vehicles(エレクトラビークルズ)への出資を決めた。また、同年8月にはコネクテッドカー向けの決済技術を手掛ける米Car IQへの出資も発表している。このうち、エレクトラビークルズとの協業については、22年1月に米国で開かれる「CES 2022」で実演(デモ)を見せる予定である。地図サービスのオランダHERE Technologies(ヒア・テクノロジーズ)とも連携し、IVYを介してエレクトラビークルズとヒアの間でデータを相互に活用できるようにする。EVの電池残量を考慮しながら、最適な経路を提案するなど、さまざまなサービスを実現できるという。

 ライドセルはIVYに参画した理由として、“データの断片化”という自動車業界の課題を挙げる。「我々が収集、分析する車両データは、カメラやミリ波レーダー、LiDAR(レーザースキャナー)、GPS(全地球測位システム)など多種多様だ。しかも、それらのデータは同じ自動車メーカーの中でも車両ブランドごとに形式が異なっている」と同社Chief Financial OfficerのShiva Kumar(シヴァ・クマール)氏は指摘する。このため、同社のサービス基盤に新たに車両ブランドを追加しようとすると、「3~6カ月ものカスタマイズ期間が必要になる」(同氏)という。

 これに対し、IVYでは「正規化(ノーマライズ)」と呼ぶ処理によってデータ形式の違いを吸収する。車載ソフト基盤「IVY Edge」とAWSのクラウドサービス「IVY Cloud」を連携させることで実現する。ライドセルは、IVYで正規化したデータを自社のサービス基盤に送ることで、車両ブランドごとのカスタマイズ作業を省略したい考えだ(図2)。

図2 IVYを介して車両のセンサーデータにアクセス
図2 IVYを介して車両のセンサーデータにアクセス
IVYは自動車メーカーやブランドの違いを吸収する正規化と呼ぶ処理を行う。これにより、ライドセルは車両のセンサーデータにアクセスしやすくなる。(ブラックベリー、ライドセルの資料を基に日経Automotiveが作成)
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QNXの影響力が後押し

 ライドセルがIVYを選んだもう1つの理由は、ブラックベリーのQNXが車載OS市場で高いシェアを持つことである。QNXは45社の自動車メーカーまたは1次部品メーカー(ティア1)が採用し、1億9500万台の車両が搭載する。電気自動車(EV)メーカーでは、上位25社中、23社が採用しているという。ライドセルはより多くの車両を自社のサービス基盤に接続するために、QNXとの親和性が高いIVYを選んだ。

 ただ、QNXを搭載する車両がすぐにIVYにつながるわけではない。車載ソフト基盤のIVY EdgeをECU(電子制御ユニット)に組み込み、コネクテッド機能を通じてAWSが提供するIVY Cloudと連携する必要がある。そのような車両がいつ何台市場に投入されるか、現時点では見えない。ブラックベリーのデイビス氏は、「今は自動車メーカーやティア1とPoC(Proof of Concept)に向けた議論を進めている段階」と説明する。

 それでも、ライドセルはIVY搭載車両が今後急速に増えるとみる。「自動車業界が抱える“データの断片化”という大きな課題を考えると、IVYのエコシステム(生態系)は今後、急速に広がるのではないか」(クマール氏)と期待を寄せる。

 ライドセルとブラックベリーの提携関係は排他的なものではない。今後ライドセルが他の車両データ基盤と連携する可能性もある。IVYに近い仕組みとしては、ライドセルに出資するウーブン・キャピタルの持株会社ウーブン・プラネット・ホールディングスが開発する「Arene(アリーン)」などがある。今後、アリーンとの連携はありうるのか、ライドセルのクマール氏に聞いたところ、「コメントできない」(同氏)とのことだった。ただ、「我々が車両データ基盤に求める条件は、第1にアクセスできるデータの種類が多いこと、第2に車両台数が多いこと、第3にサイバーセキュリティーに強いことだ」(同氏)と述べた。