海外におけるグリーン水素、すなわち再生可能エネルギーによる電力で水を電気分解して生成する水素の量産計画が急増し、近い将来に世界のエネルギー事情を大きく左右する勢いになっている。
計画生産量は日本の消費エネルギーを超える
日経クロステックの集計によると、2021年12月末時点でのグリーン水素大規模量産計画は、計1.62T(テラ)Wを超える規模になった注1)。仮に稼働率を40%とした場合の年間水素生産量は5676TWh。標準的な水電解装置の水素の生産効率は4.5kWh/Nm3†であるため、5676TWhの水素は、1261×109Nm3=約1億1260万トン注2)となる。
総発熱量(高位発熱量)は、16×1018Jとなって、日本の2015年度の最終エネルギー消費量約13.55×1018J(資源エネルギー庁調べ)を超える。グリーン水素の量産はまだスタート地点に着いたばかりという段階だが、計画は既にこの規模に達しているわけだ。
1年で規模が27倍に拡大
もちろん、計画の多くは2030年前後の本格稼働を想定し、現時点ではまだ資金の裏付けもないような“青写真”もしくは“絵に描いた餅”に近い。それでも、約1年前の時点での計画の合計は60GWほどしかなく、短期間に約27倍に膨れ上がったのは驚きといえる。しかもその大部分は、2021年秋以降に発表されたもので、現在進行形で増えているのである。
グリーン水素の量産計画が数多く立ち上がっているのはやはり再生可能エネルギーの導入が盛んで余剰電力が多い地域、または再生可能エネルギーの条件が非常によい場所である。具体的には、(1)オーストラリア、(2)南米のパタゴニア地方(南緯40度以南のチリやアルゼンチンにまたがる地域)、(3)中国、(4)欧州、(5)中東、(6)インドといった国・地域だ。
日本をターゲットに計画が大幅拡大
この中でも、グリーン水素の大規模量産計画をけん引しているのが(1)のオーストラリアである(表1)。1年前の時点では、香港InterContinental Energyが主導する「Asian Renewable Energy Hub(AREH)」だけが巨大で他は小規模なままだったが、この1年で数G~10GW規模の計画が多数登場してきた。オーストラリアだけで計画の合計は260GWを超える。
その中でも西オーストラリア(WA)州は州政府がグリーン水素の導入に積極的で2030年までに200GWを導入する目標を立てている。一方で、オーストラリア連邦政府は拙速な導入にやや慎重姿勢で、2021年6月のAREHの認可申請を即座に却下した。ただし、事業者らは諦めておらず、計画に微修正を施したのちに再挑戦する姿勢だ。勢いは陰るどころか、AREHを超える規模の「Western Green Energy Hub(WGEH)」、その他の大小の計画が雨後の筍(たけのこ)のように増えているのである。
そんなに大量のグリーン水素を生産して何に使うのか。実はその供給先の代表格が日本だ。日本における水素大手の岩谷産業、川崎重工業、丸紅、IHI、三菱重工業なども、これらオーストラリアのグリーン水素生産事業者との関係づくりに積極的である(表1、図1)。