再生可能エネルギーで水を電気分解して生産する「グリーン水素」は、これまで世界のエネルギー動向を左右してきた世界の産油国をも揺さぶっている。グリーン水素の急増に手をこまぬいていれば、石油が売れなくなった際に国家としての存立基盤を失うからだ。このため、主な産油国は急速にグリーン水素の大量生産へと動き出した(表1)。
サウジ政府は2050年までに80兆円超を投資
その動きをけん引するのがサウジアラビア、そしてカザフスタンである。サウジアラビアの石油最大手Saudi Aramco(サウジアラムコ)などは2030年までに300億米ドル(1米ドル=約115円で約3.5兆円)を投じて58.7GWの規模でグリーン水素とアンモニアの生産計画を立てている。
同社は最近まで、二酸化炭素(CO2)を回収しながら化石燃料を水蒸気改質した「ブルー水素」とそれに基づくアンモニアを推進する立場だった。この1年のグリーン水素の急激な台頭をみて、ブルー水素だけに依存するのは危険と判断したのかもしれない。
30年の目標としては65億米ドル(同約7500億円)、生産規模4GWとやや控えめなサウジアラビアの未来都市NEOMでの「Helios Green Fuels Project」にも注視が必要だ。サウジアラビア政府は50年には、この計画への投資規模を10倍超の7000億米ドル(同約80兆円)にする方針だからである。
中東のその他の国、例えばアラブ首長国連邦(UAE)は具体的な計画の発表こそまだだが、50年に同国の消費エネルギーの50%以上を再生可能エネルギー由来にする計画を21年11月に発表した。
産油国の中堅といえるカザフスタンも、ドイツの風力発電事業者Svevind Energy(スベビントエナジー)と共同で、計40GWという大規模なグリーン水素の生産計画を立てている(図1)。スベビントエナジーとカザフスタン政府との契約時には、同国の副首相が出席する注力ぶりだった。