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 企業や自治体などが専用の5G(第5世代移動通信システム)ネットワークを構築できる「ローカル5G」。携帯電話事業者が手掛ける「パブリック5G」の通信機器市場は国内・海外の大手ベンダーが牛耳っているが、ローカル5Gの世界では事情が異なる。大手以外のベンダーやシステム開発会社が相次いで参入し、ベンチャー企業も名乗りを上げている。

東大発ベンチャーが新興基地局ベンダー

 東京メトロと都営地下鉄の本郷三丁目駅から徒歩5分。東京大学の赤門にほど近いビルに拠点を構える新興の基地局ベンダーがある。東京大学大学院工学系研究科の中尾彰宏教授がNECネッツエスアイと組んで2021年7月に立ち上げた東大発ベンチャー、FLARE SYSTEMS(フレアシステムズ)だ。

 「ネットワークサービスやその上のアプリケーション、構築・運用まで手掛ける技術集団」(中川貴之取締役)の同社が提供しているのは、中尾研究室の研究成果をベースにしたソフトウエア基地局「FW-L5G-1」だ。本体は一見するとゲーミングPCのようだが、これ1台で「Sub6」の周波数に対応したSA(スタンドアローン)方式のローカル5G環境をつくり出せる。主に企業や自治体の実証用を想定した製品だ。

FLARE SYSTEMSのソフトウエア基地局「FW-L5G-1」(左)と外付けアンテナ
FLARE SYSTEMSのソフトウエア基地局「FW-L5G-1」(左)と外付けアンテナ
(出所:FLARE SYSTEMS)
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 もともとローカル5Gの基地局は、無線機であるRU(Radio Unit)と、制御部であるCU(Central Unit)やDU(Distributed Unit)の3つのノードで構成するのが一般的だった。FW-L5G-1ではRUとCU、DUのソフトを1台の汎用サーバーに実装し、さらにコアネットワークのソフトも搭載した。汎用サーバーを使うため「常設電源がない場所でも、市販のポータブル電源を使って長時間稼働させることが可能だ」(中川取締役)。

ソフトウエア基地局「FW-L5G-1」の仕組み
ソフトウエア基地局「FW-L5G-1」の仕組み
(FLARE SYSTEMSへの取材を基に日経クロステック作成)
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 特徴の1つは既存のローカル5G基地局よりもコストを抑えた点だ。中川取締役は「基地局やコアネットワークなどインフラから導入・運用支援までのフルセット価格で、コアを含まない一般的な基地局の相場価格と同水準に収まる」と説明する。

 もう1つの特徴は、基地局から端末への上り方向と下り方向の通信速度を柔軟に制御しやすい新たな5G運用方式「準同期TDD(Time Division Duplex)」に、いち早く対応した点である。カメラの高画質映像をローカル5G経由でサーバーに送信するなど、上り方向の通信により多くの無線リソースを割り当てたいというニーズに応えるためだ。

 FW-L5G-1は総務省による令和3年度の「課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」で採択された26事業のうち、3事業で採用されているという。フレアシステムズはこれまで蓄積したノウハウを基に2022年4月以降、ローカル5Gの本格的な導入環境に向けて信頼性などを高めたリファレンスモデルを提供する方針だ。

 パブリック5Gの重厚長大な設備と異なり、企業が手軽に設置しやすい安価な基地局が増えてきたローカル5G。背景の1つには、フレアシステムズの製品のように基地局機能のソフトウエア化が進んでいる状況がある。

 大手の通信機器ベンダーも基地局のソフトウエア化に力を入れる。例えば富士通の「FUJITSU Network PW300」はもともと、CUやコアネットワーク、監視制御などのソフトウエアをそれぞれ汎用サーバーに実装する仕組みだった。この仕組みを応用したのが2021年12月に発売したPW300のスターターキットだ。CUとコアネットワーク、監視制御のソフトウエアを1台のサーバーに集約することで価格を標準構成の3分の1程度に抑えた。基地局のソフトウエア化を進めていたことで製品構成が広がったわけだ。他のベンダーにも同様の動きが広がる可能性がある。

富士通の「FUJITSU Network PW300」は基地局のCUやコアなどをIAサーバー(上)、DUをArmサーバー(下)に実装して構成する
富士通の「FUJITSU Network PW300」は基地局のCUやコアなどをIAサーバー(上)、DUをArmサーバー(下)に実装して構成する
(出所:富士通)
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