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 日本企業の多くは喫緊の経営テーマとして、グローバリゼーションやデジタルトランスフォーメーション(DX)、新規事業の創出、既存ポートフォリオの再編などを掲げている。いずれに取り組むにも、M&A(合併・買収)は足りないリソースを補う手段として欠かせない。このため今後もM&A件数は増加していくことが見込まれる。

 これまで日本企業によるM&A件数は、2011年から8年連続で増加(年率11.7%増)し、2019年に過去最高の4088件に達した。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、2020年は3730件まで落ち込んだものの、2021年は4280件と過去最高を更新している。M&Aは引き続き経営における重要な成長戦略の1つになっている。

日本企業によるM&A件数の推移
日本企業によるM&A件数の推移
(出所:レコフM&Aデータベースを基にアクセンチュアが作成)
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 そもそも、M&Aの成功をどのように定義すればいいのだろうか。一義的には「買収の目的を達成し、想定していたEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)を上回る利益を生み出すこと」だろう。これを成功と定義した場合、ITがディールそのものの成否に影響を及ぼすのはどのようなケースだろうか。

ITコストが買収可否の判断に影響する可能性も

 ITがEBITDAに与える影響は「ITコスト」と「シナジー」の大きく2つに分けて考えられる。

 まずITコストに関して説明する。多くの企業はアプリケーション、インフラともにグループ全体で共通化している。このため複数の事業を手掛ける企業から該当事業だけを買収する「カーブアウト」の場合、システムを切り離すためのイニシャルコストがかかる。一般的にイニシャルコストが高ければ、ランニングコストも高くなる構造であるため、EBITDAに対して直接的にネガティブなインパクトを与えることになる。

 さらに、売り手(もしくは旧親会社)の規模が大きければ大きいほどITシステムを効率的に運用していることが多い。このため買収後はシステムの切り離しに伴い、ランニングコストが増加する可能性がある。直近でアクセンチュアが支援したあるカーブアウト案件では、EBITDAが10億円程度にもかかわらず、システムを切り離した後のITのランニングコストが2億7000万円増加するという試算結果が出た。買収規模によっては、ITコストが買収可否の判断に影響する可能性がある。

 ITコストの算出に当たっては、IT部門の人員コストを正しく見積もる必要がある。多くの場合、IT部門は全事業をサービス対象としており、その他費用と同様に費用を配賦している。こちらもランニングコストと同様に売り手(もしくは旧親会社)の規模が大きければ大きいほど、効率的にIT部門を運営していることが多い。このため該当事業だけを切り離した際には、配賦しているケースよりもコストがかかることになる。10人雇用するとなると1億円近くのコスト増になるため、買収先のEBITDAの規模によっては侮れないリスクである。