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 第1回はM&A(合併・買収)におけるITデューデリジェンス(投資評価)の観点である(1)スタンドアロンイシュー、(2)ITアーキテクチャー、(3)ITオペレーティングモデル、(4)IT投資計画について述べた。これらのなかで特に重要な論点について、第2回と第3回で具体例を交えて紹介する。

ITデューデリジェンスの主要な検討論点
ITデューデリジェンスの主要な検討論点
ITデューデリジェンスの実施に際しては、(1)スタンドアロンイシュー、(2)ITアーキテクチャー、(3)ITオペレーティングモデル、(4)IT投資計画の4つの観点で重要な問いを検証(出所:アクセンチュア)
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(1) スタンドアロンイシュー

 スタンドアロンイシューとは、親会社に依存している経理など共通部門の機能やITシステムの切り離し(スタンドアロン化)において、必要となる論点である。具体的には、親会社からのITの切り離しに当たって、国内・海外を含めてシステムが親会社にどの程度依存しているのかを把握した上で、どのようなTSA(Transition Service Agreement)を結ぶべきかを検証し、システムの切り離しにかかる期間やコストを試算する。

 なかでも重要なのは、スタンドアロン化にかかるコストと期間の見極めだ。コストの試算を見誤り、事業計画への反映が不十分だと、投資後の減損につながるリスクとなる。一方、過大に見積もると、保守的な事業計画となり、入札価格の上限を押し下げ、入札で他社に競り負ける可能性が高まる。TSA EXIT(旧親会社からITサービスの提供が終了し、自社のITのみで運営すること)に必要な期間を見誤ると、シナジー(相乗効果)を実現するタイミングが変わり、結果として事業計画と現実との間にギャップが生じる。

売り手からの提出資料は不完全だという前提で確認する

 スタンドアロン化にかかるコストを過少に見積もってしまう最大の要因は「スコープの漏れ」である。スコープの漏れとは、売り手側が提出してきた親会社依存のシステムの一覧に漏れが生じている状態を指す。M&A前のITデューデリジェンスは秘匿性が非常に高いために、売り手側のシステム担当者が売却という背景を知らずにリストを作成していたり、リストの作成に当たってどの程度の正確性が必要かの指示が曖昧だったりすることが大きな要因である。

 そもそも、リストの作成にあたるシステム担当者が、ITカーブアウトを経験していることは非常にまれである。こうした要素を踏まえて作成されたリストである点を十分に理解した上で、買い手側はITデューデリジェンスにおいて、抜け漏れのチェックや追加のデータ依頼などを進めることが何より大切だ。

 以前、アクセンチュアが買収合意以降に支援した事例では、ITデューデリジェンスを実施しておらず、当初計画より20億円以上の追加費用が必要な事実が合意後に判明した。売り手側が計画していた費用は主要システムだけが対象で、セキュリティーやメール関連、TSA EXITのためのコンサルティングにかかる費用などを計上できていなかった。主要システムの費用についても、一部で過少なコスト評価になっていた。

 売り手側から提出される資料に関しては、そもそも不完全であるという前提に立って精査する姿勢が重要だ。アクセンチュアでは業界ごとのITアーキテクチャーマップを踏まえてチェックすることで、検討の品質を担保している。