南太平洋のトンガ沖で2022年1月15日に発生した大規模噴火は人ごとではない。多くの活火山を抱える日本でも、噴火が起こった際にどれほどの地域に被害が出るのかを認識しておかなければならない。新連載「富士山噴火、対策の“空白地”」。まずは富士山噴火に関するハザードマップを読み解く。
富士山噴火に関するハザードマップが2021年に改定されたことをご存じだろうか。想定される溶岩噴出量は従来の2倍に増え、溶岩流が到達する恐れのある自治体は15から27に拡大した。
本稿で解剖するのは「富士山ハザードマップ」。噴火の影響が及ぶ恐れのある範囲を示す地図だ。主に溶岩流や火砕流などの被害を扱っている。
富士山のハザードマップは、内閣府などが04年に作製。その後、静岡、山梨、神奈川の3県と国などで構成する富士山火山防災対策協議会が21年3月に改定した。同協議会の内部組織で、火山の専門家らによる富士山ハザードマップ(改定版)検討委員会(委員長=藤井敏嗣・山梨県富士山科学研究所長)が、04年以降に得た新たな知見を踏まえ、18年からマップの見直しを進めていた。
マップを改定するうえで、噴火のシミュレーションの対象年代を「3200年前~現在」から、特に噴火活動が活発な「5600年前~現在」まで拡大し、想定する火口の範囲も広げた。委員会によると、過去5600年間で起きた噴火は約180回。そのうち96%が小・中規模だったものの、「次の噴火が大規模になる可能性もある」という。
改定に伴って、噴火の被災想定範囲が拡大した。例えば火口から噴出した溶岩が地表を流れ落ちる溶岩流。富士山の噴火で想定する溶岩の噴出量は13億m3で、従来の約2倍まで増えた。参考にする噴火を1707年の宝永噴火から、より大規模な864~866年の貞観噴火に変更したからだ。貞観噴火は大量の溶岩流を噴出し、富士山のふもとの地形を変えるほどの規模だった。
また、溶岩が流れだす可能性のある火口は、近年の調査結果を基に44カ所から252カ所に見直した。