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 富士山の大規模噴火で発生する溶岩流や火砕流は、東京都には届かないと想定されている。だからといって安心はできない。広域に堆積する火山灰が、首都圏の都市機能を停止させる恐れがあるからだ。内閣府が公表した富士山の噴火による首都圏の被害想定を基に、リスク徹底解剖(下)では「降灰」が東京都などに与える影響を読み解く。

 東京ブラックアウト──。富士山が大規模な噴火をした際、火山灰の影響で3時間後には東京や神奈川で大規模な停電が発生する恐れがある。噴火が続けば交通機能はまひし、経済活動もままならない。道路、鉄道、水道、発電所……。「降灰」でどんな事態が起こり得るのか。

富士山の大規模噴火後、西南西の風が卓越した場合の降灰に伴う降雨時の被害の影響範囲(資料:中央防災会議)
富士山の大規模噴火後、西南西の風が卓越した場合の降灰に伴う降雨時の被害の影響範囲(資料:中央防災会議)
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 首都圏などを対象とした被害想定は、内閣府の中央防災会議が設置した火山の専門家らによる「大規模噴火時の広域降灰対策検討ワーキンググループ」(主査=藤井敏嗣・東京大学名誉教授)がまとめている。2020年4月に調査結果の報告書を公表した。

 想定する噴火の規模や噴出率は、1707年に発生して16日間続いた宝永噴火を参考にした。東京大学地震研究所で火山物理学が専門の鈴木雄治郎准教授は「噴火の際の噴出物には、火山灰や噴石など火砕物が多いタイプと、溶岩流が多いタイプがある。宝永噴火は前者で、大量の火砕物が厚く堆積した」と説明する。

灰の影響を受けるのは東側

 降灰の分布は、噴火時の風向や風速で大きく変わる。全てのケースをシミュレーションするのは難しく、ある特定の条件で抽出した。富士山の上空には一般的に西風が吹いており、降灰が厚くなるのは火口の東側の地域となる可能性が高い。中でも、西南西の風が卓越すると首都圏への影響が最も大きくなる。

 最悪の場合、東京都心で2cm以上の灰が積もる予想だ。例えば、東京都新宿区では噴火15日目で10cmほど堆積する。鉄道の運休は関東地方の広範囲に広がり、東京都では四輪駆動車以外が走行できない道路も出てくる。

富士山が大規模噴火し、西南西の風が卓越して15日間降灰が続いた場合の火山灰の堆積厚(中央防災会議の資料に日経クロステックが加筆)
富士山が大規模噴火し、西南西の風が卓越して15日間降灰が続いた場合の火山灰の堆積厚(中央防災会議の資料に日経クロステックが加筆)
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富士山が大規模噴火し、東京都新宿区付近で西南西の風が卓越した場合の降灰状況(資料:中央防災会議)
富士山が大規模噴火し、東京都新宿区付近で西南西の風が卓越した場合の降灰状況(資料:中央防災会議)
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