トヨタ自動車が富士山のふもとで開発を進める実験都市「Woven City(ウーブン・シティ)」は、富士山が噴火した場合にどんな影響を受けるのか。2021年に噴火の被害想定が変わったことで、ウーブン・シティも防災計画の変更を迫られそうだ。
連載第1回で紹介した通り、富士山噴火のハザードマップは21年3月に実に17年ぶりに改定。溶岩噴出量が約2倍に増えるなど、被害想定が拡大する方向に見直された。この改定によって、自治体は避難などの防災計画に変更を余儀なくされている。
ウーブンシティは、静岡県裾野市にあるトヨタ自動車東日本の東富士工場跡地で開発が進む。富士山山頂から約25kmの距離だ。ハザードマップ改定で、火砕流や溶岩流の到達範囲や時間がどのように変化したのか見てみよう。
上図の通り、改定前のハザードマップではウーブン・シティは「薄黄色」、つまり溶岩流が発生から数日後に流下するエリアに位置していた。改定後は「薄緑色」となり、溶岩流が1日以内に到達する想定となった。裾野市で防災計画を担当する危機管理課の担当者は、「市民向けに作成している資料では、ウーブン・シティは『12時間で到達するエリア』として扱っている」と明かした。
「数日後」と「12時間後」では、避難の方法が異なる。改定前のハザードマップを前提とする富士山火山広域避難計画では、溶岩流の到達時間などによって、避難対象エリアを5つに分類し、それに応じた避難方法を提示している。
例えば、噴火警戒レベルが5となった場合を見てみよう。「数日後」に到達する地域は「第4次A避難対象エリア」で、噴火前に避難するいわゆる「事前避難」の対象ではないが、「12時間後」に到達するとなると「第3次避難対象エリア」に格上げとなり、一般住民は噴火前に事前の避難準備、避難行動要支援者は事前避難の対象となる。噴火の前に避難する必要があるということだ。
つまり、ハザードマップ改定によってウーブン・シティの住民の避難行動が変わる可能性がある。
ただし、改定後の避難計画はまだまとまっていない。溶岩流の想定が変わったことで、避難計画も大幅な修正作業が必要になったからだ。現在、有識者による「富士山火山広域避難計画検討委員会」で議論が進んでいる。静岡県危機管理部危機管理課の担当者は「22年3月末の取りまとめに向けて議論を進めている」と話す。
被害想定が拡大したことで、避難の対象人数も増えている。単純に従来の避難計画を適用すると事前避難の対象が拡大するため、自治体のオペレーションが複雑になる。加えて、一度に多数の住民が避難すれば、渋滞などを引き起こす恐れもある。こうした課題に対して、検討委員会は慎重に議論を進めている。