火山噴火を想定したハザードマップの作製や内容の充実化が進むなか、こと住宅に関しては対策が不十分なままだ。「降灰被害は抑えられるようになってきた。これからは火砕流や溶岩流への対策が急務だ」。鹿児島市内の建築設計事務所「深野木組」の深野木信代表取締役はこう語る。深野木代表は、「克灰住宅設計マニュアル」の作成に委員として携わった人物だ。
読んで字のごとく、「克灰住宅」とは、灰を克服するための住宅を指す。鹿児島県が1989年に設計マニュアルを作成し、普及を進めた。(1)火山灰の屋内侵入を防ぐ、(2)屋根に灰が堆積しないようにする、(3)灰の除去を容易にする──の3つが特徴。60年以上も噴火活動が続く桜島によって日常的に降灰にさらされている鹿児島独自の住宅モデルだ。今後、火山地域で住宅を設計する際に参考になるだろう。
克灰住宅は、気密性の高いサッシや二重サッシを用いたり、屋根形状を単純化して勾配を10分の4以上にしたりすることで、降灰による健康被害や住宅の損傷・倒壊を防ぐことを目指している。洗濯物に付着した灰を住宅内に取り込まないように、屋内物干し場やサンルームを設けているのも特徴だ。
しかし、近年では克灰住宅の注目度はそれほど高くないという。「設計マニュアルを作成した当時は、住宅の耐震性能や省エネ性能がそこまで高くなかった。技術発展や制度改正に伴って住宅の機能が向上して、気密性の高いサッシや外気に頼らない換気方法が普及した。今では、一般的な機能を有した住宅であれば降灰対策も同時に施されている状態になっている」(深野木代表)