カーボンニュートラル(温暖化ガス排出実質ゼロ)はどこか腹落ちしない─。こう感じる人は少なくない。日経ものづくりが実施した脱炭素への疑問に関するアンケート調査に、485件もの自由意見が寄せられた。
政府宣言から1年、急激な脱炭素シフト
2020年10月に、菅義偉首相(当時)が「2050年のカーボンニュートラル達成を目指す」と宣言してから、1年あまりが経過した。20年度における日本の温暖化ガス総排出量は11億4900万t。政府は30年度に13年度比46%減の7億6000万tまで削減し、50年度に実質ゼロとする目標を掲げている(図1)。20年10月の宣言は、世界120以上の国・地域がカーボンニュートラルを目指すと宣言する中で、足並みをそろえたものだ。その後、産業界では急速に脱炭素の動きが加速。その影響は、製造業を含めたほぼ全ての業界に及んでいる。
ただし、これまで日本企業が省エネルギー技術や環境技術で世界から大きく遅れを取ってきた訳ではない。燃費の良いハイブリッド車(HEV)や高効率の火力発電などは、その代表格だったはずだ。
ちなみに、日本の二酸化炭素(CO2)排出量のうち、製造業を含む産業部門は34.7%を占める(図2)。最も多いのは鉄鋼業界で、同部門の40.2%、日本全体の14%弱である。もちろん、同業界では以前からプロセス改善や廃熱回収に取り組んでおり、日本鉄鋼連盟は16年、「日本の鉄鋼業のエネルギー効率は世界最高水準であり省エネ対策の余地は少ない」との見解を示していた*1。
ところが、世間の雰囲気はカーボンニュートラルの一声で厳しくなった。鉄鋼業界を含め、真面目に環境対策を進めてきた企業も、「乾いた雑巾をさらに絞れ」と言わんばかりの難題を突きつけられている。