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 「電気自動車(EV)ありきで議論が進んでいるように思う」「あたかもEVがカーボンニュートラルの切り札のように世論が操作されていないか」─。

 日経ものづくりが2021年12月から22年1月にかけて実施した「EV・水素・再エネなど炭素中立の疑問点に関する調査」には、回答者からこんな意見が多数寄せられた。「EVの普及が炭素中立に貢献すると思うか」という問いに対し、「貢献する」という回答は61.5%となった一方で、「貢献しない」との回答も33.0%あった(図1)。3割強がEV偏重の議論に懐疑的な見方をしている。

図1 3割が「貢献しない」と回答
図1 3割が「貢献しない」と回答
「EVの普及が炭素中立に貢献すると思うか」という問いに対しては、「貢献しない」との回答は3割を超えた。ニュース配信サービス「日経ものづくりNEWS」の読者を対象に、アンケート用URLを告知した上で回答を依頼。2021年12月28日~22年1月6日に実施し、678の回答を得た。(出所:日経ものづくり)
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 電気だけを使ってモーターで駆動するEVは走行時に二酸化炭素(CO2)を排出しない。そのため一般的にはEVが普及してCO2を排出するガソリン車に取って代わるのを無批判に認める風潮が見受けられる。しかし、アンケート調査の結果からは、こと製造業に関わるエンジニアや経営者の間ではその論調が必ずしも受け入れられていないと分かる。

 アンケート調査の回答や専門家への取材から、EVに対する「疑問」は大きく3つに分類できる(図2)。[1]EVは本当にカーボンニュートラルなのか。[2]仮に貢献できたとして、EVが一般的に普及するのは現実的なのか。そして[3]EVがガソリン車に取って代わる「脱・ガソリン車」が本当に唯一の解なのか─である。

図2 EVの普及によるカーボンニュートラルに対する疑問
図2 EVの普及によるカーボンニュートラルに対する疑問
(出所:日経ものづくり)
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 EVの普及がカーボンニュートラルに貢献する可能性は高いが、EV一辺倒が良いわけではない。また、EVが普及するためには解決すべき課題があり、その解決策を探る必要がある─。専門家への取材からは、こんな実状が浮かび上がる。

発電時に排出したCO2は?

 加熱するEVブームに一石を投じたのが、日本自動車工業会(JAMA)会長でトヨタ自動車社長の豊田章男氏だった。21年3月に開いたオンライン会見で、総発電量の約75%を火力発電が占め、再生可能エネルギーのコストが火力発電より高い日本の電力事情について触れたのだ(表1)。

表1 日本・海外のエネルギー状況
日本では火力発電所での発電量が海外に比べて高い。2021年3月に公表。(出所:日本自動車工業会)
表1 日本・海外のエネルギー状況
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 この時に豊田氏が強調したのは、「LCA(Life Cycle Assessment:ライフサイクルアセスメント)ベースでの炭素中立の実現」だ。

 LCAとは、製品の原材料生産から廃棄に至る製品のライフサイクル全体で環境負荷を評価する考え方だ。欧州では、EVなどの電池に対して24年からLCAによるCO2排出量の申告を義務付けるなど規制強化の議論が本格化。日本でもLCAの考え方が浸透し始めている。

 この時、なぜ豊田氏は「総発電量の約75%を火力発電が占める日本の電力事情」に言及したのか。それは日本の系統電力の電源構成が、EVのCO2排出量に影響するからだ。

 EV自体が走行時にCO2を排出しないのは疑問の余地はない。しかし、モーターを動かすのに石炭火力などCO2を排出する火力発電所で発電された電気を使っていれば、走行時にCO2を排出しているのに等しい。特に原子力発電所がほとんど稼働していない日本では電源における火力発電所の比率は高い。「EVが増えて電気を使えば使うほど、CO2排出量が増大しないか、本当にCO2排出量がガソリン車より少ないのか」という疑問が頭をもたげる。