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 2022年1月20日、川崎重工業が建造した液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」がオーストラリアに到着した(図1)。同船は21年12月末に神戸を出港。褐炭から製造した水素を現地で積み込み、22年2月下旬ごろ日本に戻る。「CO2フリー水素サプライチェーン推進機構(HySTRA)」が世界で初めて取り組む、液化水素の海上輸送試験だ*1

 燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出しない水素は、カーボンニュートラル(温暖化ガス実質ゼロ)に向けた次世代エネルギーとして期待が高まる。その調達方法として、褐炭からの水素製造が候補に挙がっているのだ。

図1 液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」
図1 液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」
全長116×全幅19m。真空2重構造のステンレス鋼製の液化水素タンクを搭載し、一度に75トンの水素を運べる。タンクの容積は1250m3で、現在主流とされるLNG船の容量15~17万m3と比べると小さい。(出所:HySTRA)
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*1 CO2フリー水素サプライチェーン推進機構(HySTRA)
褐炭を利用した水素サプライチェーンの構築に取り組む企業団体。2030年ごろの商用化を目指している。川崎重工業、電源開発など7社が参画する。

豪州から日本へ水素を運ぶ

 このプロジェクトが始まったのは16年。日本とオーストラリアの2カ国にまたがる水素サプライチェーンを構築する試みだ(図2)。液化水素の海上輸送をはじめ、褐炭をガス化して水素を造る技術や、運搬船の液化水素を陸上タンクに移す荷役技術に挑む。

図2 日豪間の水素サプライチェーンを実証
図2 日豪間の水素サプライチェーンを実証
オーストラリアで採掘した褐炭から水素を製造する(a)。液化して運搬船に積み込み、日本の荷役ターミナルまで運ぶ(b)。(写真a:HySTRA、J-POWER/J-POWER Latrobe Valley、写真b:HySTRA)
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 褐炭を使うのは、安価な水素を大量調達できる可能性を秘めているからだ。ボイラーや高炉に使われる石炭(歴青炭)と比べて、水分や不純物が多い褐炭は、低品位な石炭とされる。熱量当たりの輸送コストがかさむため、これまでは炭鉱近隣に建設された火力発電所の燃料などに用途が限られていた。

 オーストラリアのビクトリア州には、こうした褐炭が大量に存在する*2。現地で褐炭を水素に換えて、-253℃の極低温にすれば、体積を800分の1に減らせる。国をまたいだ大量生産と大量輸送を実現できれば、安価な水素への道筋が開ける。

*2
理論上の埋蔵量は日本の総発電量の240年分との試算がある。

 一連の実証プロジェクトのうち、褐炭由来の水素製造は電力会社の電源開発(J-POWER)が取り組む。炭鉱の近隣に実証プラントを建設して、21年2月ごろから水素の製造を始めている。

 水素製造のおおまかな仕組みはこうだ。まず、褐炭に少量の酸素を供給して蒸し焼きにする。いわゆる不完全燃焼である。すると、褐炭は一酸化炭素(CO)と水素が主成分のガスに変わる。このガスから不純物を除き、さらに水蒸気と反応させると、今度はCO2と水素が主成分のガスになる。CO2を分離・回収すれば、高純度の水素が得られる。

 こうして製造した水素を、高圧水素トレーラーで陸上輸送し、港の水素の液化・積み荷基地に入れる*3。そこで液化水素を運搬船に積み込み、日本へと運ぶ。神戸空港島の北東部にある日本側の受け入れ基地では、運搬船から液体のまま水素を陸上のタンクに移し替える。以上が、この実証試験のおおまかな流れだ。

*3
水素の液化・積み荷基地はオーストラリア ビクトリア州のヘイスティングス港にある。

 すいそ ふろんてぃあの建造にあたってはLNG船の経験を生かした。中でも技術的な注目点は、水素タンクの断熱性能にある。「-253℃の水素温度を保ちながら赤道を越えて運ばなければならない」(HySTRA)。そこで、真空2重構造を採用したステンレス鋼製の水素タンクをあらたに開発した。