「EVバブルはいずれはじける。日本は発達した公共交通機関などを活用し、都市単位でのエネルギーマネジメントに強みを見いだしていくべきだ」——。エネルギー問題に詳しい日本総合研究所フェローの井熊均氏は、こう訴える。電気自動車(EV)にはバッテリーのエネルギー効率が低いといった解決困難な課題が多く、技術的に「世界中の自動車がEVに置き換わることはない」とも。そして日本は、「発達した公共交通機関を活用した都市単位でのエネルギー管理を強みにすべきだ」と説く。(聞き手は斉藤壮司、高市清治)
バッテリー式電気自動車(EV)普及の動きをどのようにみていますか。
井熊氏:EVの普及が、すなわち自動車におけるカーボンニュートラル(温暖化ガス排出実質ゼロ)の実現であるかのような空気がまん延していますが、当然そんなことはありません。EVは「手段」の1つでしかなく、その普及はカーボンニュートラルの「完了」を意味しません。
後述しますが、移動手段に限定して言えば、自家用車から公共交通システムへの移行がカーボンニュートラルには最も有効のはずで、EV偏重の議論が展開されている現状を危惧しています。
また、国内外でガソリン車の製造から撤退してEV製造への集中を宣言する自動車メーカーまで現れていますが、ビジネス上の大きなリスクになりかねないでしょう。
自動車市場の半分はHEV
井熊氏:というのも当面、世界市場で販売されるクルマの半分はハイブリッド車(HEV)になりそうだからです。米国と中国というクルマの2大市場は2030〜35年の新車販売の半分をEVや燃料電池自動車(FCV)にする方向性を示しています。つまり、半分はHEVを販売することを意味します。
これだけ大きな市場があるのに多くの企業がHEVから手を引き始めている。世界の2大市場が「半分の市場で最も有力なのはHEV」と言っているのに、その市場に供給できる製品を製造・販売しないのは通常、企業戦略的にあり得ません。HEVを製造・販売している企業は継続して売ればいいはずで、こんなにうまみのある市場はないでしょう。
日本の自動車メーカーは、EV市場で勝ち残れそうでしょうか。
井熊氏:既に10〜20年という時間をかけてEVのバリューチェーンを確立している中国に勝てそうもありません。EV購入の補助金制度ばかり話題になりますが、中国は国を挙げてのEV生産体制を構築しています。リチウム鉱山の権利把握から蓄電池産業の振興、EVメーカーの後押しに至るまで、他国が一朝一夕でまねできるものではありません。
EV製造の水平分業体制も整っており、価格競争では中国メーカーに勝てるとは思えません。少なくとも1企業の努力ではどうにもならないでしょう。