全2633文字
PR

 2代目となったトヨタ自動車の燃料電池車(FCV)「MIRAI(ミライ)」。燃料電池(FC)システムを刷新し、「コスト半減」という至上命題を達成した。ハイブリッド車(HEV)との部品共通化を進める中では、熱の扱いに奮闘。今後は、「bZ4X」など次世代の電気自動車(EV)との連動が重要になりそうだ。

 世代ごとにシステムコストを半減する――。トヨタがHEVで課してきた鉄の掟(おきて)だ。「普及してこその環境車」を標榜するトヨタとしては、この掟はFCVでも必達目標となる。2代続けてミライの開発責任者を務めた田中義和氏(トヨタMid-size Vehicle Companyチーフエンジニア)は「初代からコストを半分以下にできた」と胸を張る。

 トヨタによると、燃料電池(FC)スタックや水素タンク、補器類などを含めたFCシステム全体のコストは、初代比で1/3に低減したという。大幅なコスト低減に向けて同社が打った手は、(1)専用部品の構造簡素化や量産性向上と(2)HEVとの部品共通化の2つである。

セルは40枚減ながら発電能力を向上

 FC専用部品の多くは、フロントフード下に配置した(図1)。コスト削減に特に効いたのが、発電を担うFCスタックである。分かりやすいのが、FCスタックのセル数である()。最高出力を初代の114kWから128kWに高めつつ、セル数を370枚から330枚に減らした。これで、セルを積み重ねる工程を40枚分少なくできた。性能を犠牲にしているわけではなく、体積出力密度で比較すると3.5kW/Lから5.4kW/Lに高めている。

図1 ミライの電動部品
図1 ミライの電動部品
燃料電池(FC)関連の専用部品はフロントフード下にまとめて配置する。駆動モーターやリチウムイオン電池、PCU(パワー・コントロール・ユニット)など多くの部品をトヨタのHEVと共用した。(撮影:加藤 康)
[画像のクリックで拡大表示]
表 新旧ミライの性能比較
トヨタ自動車の発表情報を基に日経Automotiveが作成。
車種 初代ミライ 2代目ミライ
発売時期 2014年 2020年
FCスタック 体積出力密度 3.5kW/L 5.4kW/L
セル数 370枚 330枚
最高出力 114kW 128kW
水素タンク 本数 2本 3本
水素搭載量 4.6kg 5.6kg
駆動モーター 最高出力 113kW 134kW
最大トルク 335N・m 300N・m

 セル単体の構造も見直した。セルは、水素と空気中の酸素を反応させるMEA(Membrane Electrode Assembly、膜電極接合体)を、水素と空気の流路(ガス流路)を成形したセパレーターで挟んで構成する。

 新型ミライのセルは、セパレーターの数を従来の3枚から2枚に減らした(図2)。削減したのは空気極側。初代は2枚のチタン(Ti)製のセパレーターを使った。新型セルは「1枚のTi製セパレーターで同等の空気の拡散性を実現できる構造にした」(田中氏)という。

図2 セパレーターの数を3枚から2枚に削減
図2 セパレーターの数を3枚から2枚に削減
セルは、空気中の酸素と水素を反応させるMEAを2枚のセパレーターで挟む構造である。従来は空気を供給する面のセパレーターを2枚、水素供給面で1枚搭載していた。(撮影:松田篤志)
[画像のクリックで拡大表示]