「5.6kgの水素を貯蔵するために、合計で約110kgの水素タンクを搭載していた」
1回の充填で最大約850km走行できるトヨタ自動車の2代目燃料電池車(FCV)「MIRAI(ミライ)」の水素貯蔵システムの結論を言うとこうなる。初代から航続距離を30%延長できた最大の理由が、水素搭載量の増加である(図1)。
SiC(炭化ケイ素)のパワー半導体素子を採用して効率を高めた燃料電池(FC)システムに注目が集まりがちだが、航続距離の延長への貢献度としては水素タンクの刷新の方が大きい。30%の延長分の内訳は、前者が10%で、後者が20%である。「水素をできるだけ多く積む」というトヨタの愚直な取り組みを分解調査で探った。
「明らかに太い」センタートンネル
2代目となる新型ミライは、3本の水素タンクを搭載する。初代は2本だった。水素搭載量は、4.6kgから5.6kgに増やした。
3本の水素タンクのうち、1本はセンタートンネルに縦置きし、残りの2本はリアアクスル(後部車軸)の前後に横置きした(図2)。センタートンネルに搭載したものが最も長い。
新型ミライのプラットフォームは、トヨタの車両開発手法「TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」に基づくFR(前部エンジン・後輪駆動)車向けの「GA-L」である。「レクサスLS」や「クラウン」などと同じだが、センタートンネルは「明らかに太い」(分解調査を担当した自動車技術者)。
エンジン車のプロペラシャフトよりも、水素タンクの直径が何倍も大きいからだ。このため、プラットフォームこそ共有するものの、ミライ専用にアンダーボディーを設計した(図3、4)。その空間に配置した水素タンクは、長さが約1400mmで、直径は約300mmだった。質量は約46kgである。
残る2本のタンクの質量は、リアアクスルの前側に配置したものが約38kg、後ろ側の車両最後部に搭載したものが約25.5kgだった。長さおよび質量は3本とも異なるが、直径は約300mmで共通である。初代ミライの2本のタンクは直径が異なっていた。直径をそろえることで、タンクの製造装置を統一できた。設計・開発費も抑制できたとみられる。
タンクの数や容量だけでなく、貯蔵性能も高めている。タンク質量に対する水素貯蔵質量の割合(質量効率)は、5.7wt%から6.0wt%に向上した。貯蔵性能を高められたのは、強度を確保しつつタンクの厚みを低減できたからである。