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 日経クロステックは、2021年8月にトヨタ自動車の燃料電池車(FCV)である新型「MIRAI(ミライ)」の分解を実施した。その分解に協力いただいたのが、千葉県自動車大学校(CATS)である。同校は日産自動車の「リーフ」やトヨタの「プリウス」などを所有し、早くから自動車の電動化を見据えた教育を行ってきていることで有名である。大型部品の分解は、同校の設備を使い、整備の専門家である同校の教員が実施した。また、CATSは、初代ミライも所有しておりFCVにも造詣が深い。現場で分解を主導した、同校の校長の廣瀬浩明氏に、整備士の目から見た新型ミライについて聞いた。(聞き手は、中道 理、松田篤志=エーエムクリエーション)

学校で初代ミライを所有していますよね?

 自動車整備業界が設立した教育機関なので、県内の各ディーラーや整備工場で活躍できる人材を育成する責任があります。当時、今後は水素燃料の時代がやってくるという機運があり、その要請に応じる形で、早々に導入しました。狙いは基本的技術力と知識を身に付けるためです。当時県内では千葉県庁、千葉銀行に続く3台目でした。

千葉県自動車大学校(CATS)校長の廣瀬浩明氏と同校が所有する初代ミライ
千葉県自動車大学校(CATS)校長の廣瀬浩明氏と同校が所有する初代ミライ
(撮影:加藤 康)
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 当校のミライは、実習以外にレースにも参加させています。レースに出て走ることによってFCVの特徴や課題を認識し、(FCVの整備に対する)センスを磨くことができます。学生には、FCVを扱う上で必要な高圧ガス取扱者資格を取得させるなど、トータルな整備ができる人材育成もしています。

CATSの校舎外観
CATSの校舎外観
新型ミライの大型部品の分解はこの校舎内にある作業スペースで実施した。(撮影:加藤 康)
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初代ミライと新型ミライ、分解してみて感じた違いはどんなところでしょう。

 完全に別物ですね。初代はプリウスですが、新型は「レクサスLS」がベースですよね。新型は、溶接や補強、コーキング、ジョイントなどのクオリティーが明らかに高く、各部の仕上がりが上質です。とても良いクルマに仕上がっていると感じました。

 分解していて、冷却構造が改善されていると感じました。初代では、燃料電池(FC)スタックが前列シートの下の辺りにあり、風がほとんど当たらない。車内からエアコンの冷風を導入するなど、冷却に苦慮していました。そのため、レースで2~3周走っただけでFCスタックは高温になり、アラートが出ていました。

 新型のFCスタックはフロントフード下にあり、ラジエーター通過後の空気もスタックに当たります。また、新設計のFCスタック冷却系によってさらに性能を向上させているようですね。

新型ミライのフロントフード下
新型ミライのフロントフード下
FCスタックが収まっている。初代のミライでは、FCスタックは前列座席の下にあり、風による冷却は期待できなかった。(撮影:日経クロステック)
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 分解前に学校の近くで少し走らせてもらったのですが、(初代の前輪駆動から)新型はシャシーが後輪駆動になったことで前輪と後輪の役割分担がはっきりしました。前後輪のマルチリンク式サスペンションがよく動き、特に後輪の接地感が格段に向上していると感じました。新型ミライをレース場に持って行き、冷却を含め各部の性能がどれだけ向上しているのか知りたいですね。

整備という面はどうでしょうか。

 整備方式としては、FCシステムや駆動系を除き初代はプリウスと同じ、新型はレクサスLSと同じで、どちらもトヨタ標準で特に混乱はありません。しかしながら部品点数は明らかに増えていて、その分整備に必要な時間数は増えてしまいます。

 また、整備に必要となるSST(Super Special Tool:特殊工具)の種類も増えますが、それをそろえて使い方にも慣れれば特に問題はないと思います。ただし、汎用の外部診断機で対応できない項目が増えているので、常に最新の純正外部診断機が必要ですね。導入コストは上がります。

 分解してみて造り方も違うなと感じました。初代は1台ごとの組み立て、新型は既存ラインでの流れ作業での組み立てだと思います。それを象徴しているのが、後部のLiDAR(レーザーレーダー)でダミーを取り付けていた点です。中身の基板が搭載されていない点以外は、取り付けも配線も完成形です。恐らくラインでの製造工程で中身があろうがなかろうが同じ工程で組み立てられ、仕様変更の影響を最小限にするための工夫ではないでしょうか。ダミーの後部LiDARについては上記に加えて、開発途上のため市場での汚れ状況や事故時の損傷状態など市場情報を集めたい意図もあるのではないかと思います。