全3365文字
PR

 わずか数万円で5G(第5世代移動通信システム)ネットワークを構築可能に――。

 スウェーデンのEricsson(エリクソン)や中国の華為技術(ファーウェイ)といった大手通信機器ベンダーが支配する4Gや5Gなどの通信機器分野に、ソフトウエア化とオープンソースの波が訪れている。

 ITの世界に訪れたソフトウエア化とオープンソースの波は、Linuxに代表されるように、誰もが低価格でコンピューティングシステムを利用できるというコモディティー化につながった。

 ITの世界に遅れつつ通信機器市場に訪れたソフトウエア化とオープンソースの波は、通信インフラ市場を飲み込み、通信機器ベンダーの聖域を崩して価格破壊をもたらすのか。

数万円で4Gや5Gのネットワークを試せる
[画像のクリックで拡大表示]
数万円で4Gや5Gのネットワークを試せる
オープンソースとして公開されている基地局やコアネットワーク用のソフトウエアとソフトウエア無線機を組み合わせることで4G/5Gネットワークを構築できる(出所:日経クロステックが作成)

4G、5Gのオープンソースプロジェクトが続々

 5万円程度で売られている汎用(はんよう)のソフトウエア無線機を、USB 3.0経由でパソコンやサーバーに接続する。パソコンやサーバー上で、オープンソースとして公開されている4Gや5Gの基地局(eNB、gNB)ソフトウエアを実行。さらにもう一台、コアネットワークの役割を果たすパソコンやサーバーを用意し、こちらもオープンソースとして公開されているEPC(Evolved Packet Core)や5G Core(5GC)のソフトウエアを実行する――。

 これだけで、誰もが低価格に4Gや5Gの一通りのネットワーク構成を試せる時代が訪れている。ここに来て、4Gや5Gの基地局やコアネットワークの機能をオープンソースソフトウエア(OSS)として開発するプロジェクトが、世界で続々と登場しているからだ。

主な5G関連のオープンソースプロジェクト
[画像のクリックで拡大表示]
主な5G関連のオープンソースプロジェクト
(出所:日経クロステックが作成)

 無線アクセスネットワーク(Radio Access Network:RAN)の分野では、例えばフランスの学術機関「EURECOM」が主導する「OpenAirInterface(OAI)」というプロジェクトがある。OAIでは既に4Gと5Gの基地局機能を実現するオープンソースソフトウエアを公開済みだ。

 ソフトウエアとの親和性が高いコアネットワークの分野では、さらに数多くのプロジェクトが活動している。台湾の国立交通大学(National Chiao Tung University)が中心となった「free5GC」は、 3GPP Release 15に対応した5GCのオープンソースソフトウエアを既に公開している。米Meta Platforms(旧Facebook)が協力して安価な5GC実現を目指す「Magma」といったプロジェクトも活発な活動を続けている。

 これらオープンソースソフトウエアの開発コミュニティーは、どのような活動をしているのか。

 富士通は、RAN分野の代表的なオープンソースプロジェクトであるOAIの活動に積極的に参加している。同社モバイルシステム事業本部 モバイルPF開発統括部統括部長の秋山裕子氏はOAIの活動について、「91の企業、団体が参加している。例えば21年はトータルで4000弱のソースコードがコミュニティーにコントリビュートされた。そのうちの約4割が、母体となっているフランスの学術機関であるEURECOMが貢献している」と話す。米QualcommやMeta、米XilinxなどもOAIの活動に参加する。

 4Gや5Gのオープンソースプロジェクトは、OAIのように学術系団体を母体にしているところが多い。OAIは設立の目的の1つとして、通信分野のエンジニアの育成を掲げる。誰もが手を動かして4Gや5Gを試せるという環境をつくることがモチベーションになっているようだ。

 富士通がOAIの活動に参加したのは2017年という。同社はNTTドコモなどにキャリアグレードの基地局製品を納入するベンダーだ。商売敵になるかもしれないオープンソースの活動になぜコミットしているのか。「汎用(はんよう)サーバー上で動くソフトウエア製品に取り組みたかった。当時の富士通は専用機から基地局をつくることが主流で、それではプライベートネットワークに(金額的にも機能的にも)マッチしなかった。当時、RAN分野のオープンソースプロジェクトの中で最も完成度の高かったのがOAIだった」と秋山氏は打ち明ける。