米Ascend Elementsなどはリチウム(Li)イオン2次電池(LIB)のリサイクル(再資源化)時に、正極活物質を各元素にまで単離せずに合成する次世代湿式製錬技術「Hydro-to-Cathode」を開発した。これに似た手法は、湿式製錬のさらに次に来ると見込まれるリサイクル技術の「ダイレクトリサイクル」でも開発されている注1)。
ブラックマスから直接NMCを取り出し
ダイレクトリサイクルの定義は必ずしも明確ではないが、LIBのセルを構成する部材をできるだけ壊さずに、しかもエネルギーをできるだけ使わずに取り出し、それぞれをリユースすることである。これが実現すれば、廃棄物とその廃棄費用が最小で済む上に、車載用蓄電池の正極材料に使われているNi-Mn-Co(NMC)のような部材を高い付加価値のまま再製品化できる。
その1例が、米OnTo Technologyが2021年11月に発表した、ブラックマス(破砕した電極材料)を基にダイレクトリサイクルによって正極活物質のNMCを再生する「Cathode-Healing(正極再生)」である(図1)2)。その一部は湿式製錬の一種のようにもみえるが、強い酸などで部材を溶かし出すことはせず、ろ過などの物理的な手法を中心に材料を分離、再生することを目標にしている。同社はこの技術に関連する特許文書を2004年にさかのぼって自ら公開している。
高温高圧の水で不純物を分離
それによれば、電池パックやセルを破砕し、ブラックマスを取り出すところまでは既存のリサイクル技術と基本的に同じである。
その後、ブラックマスを水熱法の圧力容器(オートクレーブ)に、水酸化リチウムの飽和水溶液や酸化剤である過酸化水素(H2O2)などと共に入れて、セ氏250度で2時間超加熱する。その後、自然に温度が下がるのを待ってから容器のフタを開けると、ブラックマスに含まれていた黒鉛などの炭素材料やバインダーなどが浮いている状態になるという。次に、それらを除去して乾燥させた材料にLi2CO3などを加えて煆焼(かしょう)する。ただし、その際の適切な温度は材料によって異なり、元の正極活物質がコバルト酸リチウム(LiCoO2)の場合はセ氏300度、Niリッチな正極活物質ではセ氏940度であるという。
特許文書ではこのプロセスで再生したNMC622†などの正極活物質が新品版のNMC622とそん色ない容量を示すことなども主張している。
同社の前身とみられる米Hulicoの商標登録の申請書では、この手法で正極活物質が再生できるメカニズムの説明もしている3)。それによれば、電池の充放電を繰り返すことで、正極活物質は、結晶の構造が一部崩れ、その空孔にLi+、そして結晶から離脱したNi2+が不規則に入り込むことで容量が低下した状態になるとする。この正極活物質をCathode-Healingの水熱法で処理すると、Li+が空孔から抜けると同時にNi2+が元の結晶に戻って結晶構造が回復。さらに焼成することで構造が整うのだとする。