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 バズワードのように頻繁に耳にするようになった「メタバース」。参入企業やサービスが目立ち始めた中、まだ黎明(れいめい)期のメタバースについては「知っているようでよく分からない」ことが多いのではないだろうか。本特集では10の疑問を通じて、メタバースの真価を解き明かしていく。第1回は、いまさら聞けない基礎知識編だ。「そもそもメタバースって何?」「なぜ急にブームがやってきた?」「メタバースが持つ可能性は?」の3つの疑問を取り上げる。

【疑問1】そもそもメタバースって何?

 「メタバース」と一言に述べても、その言葉が持つ意味は様々だ。米Gartner(ガートナー)が「2026年までに、世界の組織の30%がメタバースに対応した製品やサービスを持つようになる」と予測を発表するほどの勢いを見せる2022年初頭においても、「メタバース」の定義は幅広い。KPMGコンサルティングのHyun Baro(ヒョン・バロ)Technology Media&Telecomディレクターは「メタバースはこれから発展していく世界。今の時点で誰かが定義を決めてもどうなっていくか分からず、固く決める必要はない」と話す。

 とはいえ、ビジネスでの活用が進むメタバースについて議論するとき、相手がメタバースをどう捉えているかを知っておく必要はあるだろう。メタバースのプラットフォーム「cluster」を提供するクラスターの加藤直人CEO(最高経営責任者)は「メタバースは切り口ごとに語られ方が異なる。視点は大きく4類型に分類できる」と説明する。相手の話す「メタバース」がどの視点に属するかを理解することがすれ違いの防止に役立つはずだ。

話し手により異なるメタバースの4類型の定義

 1つめは、SF小説などで描かれていた「人類の夢の暮らしを表す世界」だ。コンピューターが描いた世界の中に実体としての人間が入り込んでいくもので、メタバースという言葉が最初に使われたといわれる、米国の小説家ニール・スティーヴンスンのSF小説「スノウ・クラッシュ」に描かれたような世界だ。これはまだ実現されておらず、「メタバースの世界はまだまだ来ない」と話す人にとってのメタバースはここに属する。

 2つめは、「3次元CG(コンピューターグラフィックス)の技術を使って実装された仮想空間」だ。CGの世界の中で利用者がアバターとなって様々な行動を取ることができる仮想の3次元空間で、既に実現されており、世界で数百万、数千万規模の人が体験している。新型コロナウイルス禍で活用が進んだ仮想オフィスなどもこの一種だ。米リンデン・ラボの「Second Life」や任天堂の「あつまれ どうぶつの森(あつ森)」を指して「メタバースはずっと前から存在している」と話す人の視点はここに属する。

 3つめは、「市場の要請」の視点だ。様々な業界がそれぞれ抱える課題を解決する手段の1つとしてメタバースを位置づけている。例えば、メタバース実装の先駆けといえるゲーム業界では、ゲームの存在がまだ嗜好品の範囲にとどまり「生活必需」まで至っていない。SNS(交流サイト)ではいかに自社サービスに長く滞在させるかという点で、ゲームと動画配信サービスなどとの間で利用者の時間を取り合っている。どちらもメタバースにより利用者が仮想空間の中で行う活動の幅を広げ、過ごす時間を増やすことでビジネス上の発展を見込む。「自社ビジネスを仮想空間内でどう発展させるか」を考える役割の人にとってのメタバースはここに属するケースが多い。

 4つめは、「消費活動の変遷」の視点だ。これまでの消費活動はEC(電子商取引)サイトのように物理的に存在する商品のやり取りを「主」とし、「従」としてデジタルが支えるという物質に依存したスタイルだった。一方で近年、ゲームのアイテム購入や動画サービスでの投げ銭などバーチャル上の体験に対価を支払うスタイルが広がっている。リアルでの支払いが「従」となり、「主」であるデジタル経済を支えるように消費活動が変遷している。仮想空間内でのクリエーターエコノミーの議論などはこの視点に属するだろう。

仮想空間での「飲み会」の様子
仮想空間での「飲み会」の様子
(出所:クラスター)
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