ビジネスをはじめ、様々な場面での活用が期待されるメタバース。大きな可能性を秘める半面、黎明(れいめい)期ならではの課題も存在する。特集第3回は、メタバースが将来の発展に向けて向き合うべき課題編だ。「企業や利用者にとっての課題は?」「法律から見るメタバース、どんな問題がある?」「サイバー攻撃のリスクと取るべき対策は?」の3つの疑問を取り上げる。
【疑問8】企業や利用者にとっての課題は?
第2回で取り上げたように、メタバースに関わる技術の進歩は利用者の利便性向上や参入コストの低減に貢献してきた。しかし、「全ての人が当たり前に仮想空間で生活する世界」の実現には特に利用者側のデバイスの進化が必要となる。
VR(仮想現実)用ヘッドマウントディスプレーは持ち運んで外出先でも使えるサイズや、気軽に購入できる価格の実現には至っていない。「現段階では多くの一般利用者がパソコンやスマートフォンから仮想空間に参加したいと考えている。一方、工場などの現場業務ではヘッドマウントディスプレーを装着して両手を空けたいなど需要が分散する。提供側がバリエーションを増やして対応する必要があるだろう」(日本マイクロソフトの上田欣典Mixed Realityマーケティングプロダクトマーケティングマネージャー)。
多くの人が持っているであろうスマホも仕様は様々だ。メタバースをストレスなく利用してもらうには、俗に「ぬるぬる動く」と表現される3次元CGの滑らかな描画性能が不可欠だが、そうした状態を実現できない性能のスマホもある。KDDIの中馬和彦事業創造本部ビジネスインキュベーション推進部長は「バーチャル渋谷においても利用者側のデバイス環境を考慮した結果、提供できていないサービスや制限している性能が多数ある」と明かす。
日本の文化や風潮に根ざす問題もある。新型コロナウイルス禍でオンライン会議などは浸透したものの、「日本企業において仮想空間での働き方を全社に導入するには相応のハードルがある」(日本マイクロソフトの上田マネージャー)。リアル主義の経営層の無理解、各社員の実際の様子が見えない環境における労働実態の管理、仮想空間での労働に対する人事評価など解決すべき問題は多い。サービスを提供する企業も導入する企業も、どんなシーンであれば具体的に活用を進められるのか、シナリオを考えて進めることが必要だ。でないとメタバースは「ただの面白い技術群」で終わってしまう。そうなれば、日本はこの分野で世界から取り残されてしまうリスクがある。
また、仮想空間にもリアルの日常生活と同じようにマナーやルールが存在する。利用者の自治に任せるのか、プラットフォーマーが利用規約などで制御するのか、法律で規制するのか、適切な役割分担を検討する必要がある。このような問題に対し、国も動き始めている。経済産業省は2021年7月に「仮想空間の今後の可能性と諸課題」に関する調査報告書を公表。仮想空間ビジネスの拡大に向けた課題を「政治的要因」「経済的要因」「社会的要因」「技術的要因」のPEST分析で整理している。まだ各課題の具体的な解決方法確定には至っておらず、事業者・学識者・弁護士など各分野の専門家を交えた継続的な検討が必要だ。