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 2022年2月28日から3月3日にかけてスペイン・バルセロナで開催されたモバイル業界最大級の展示会「MWC Barcelona 2022」(以下、MWC)。今年のMWCでは、さまざまなベンダーの基地局製品をオープンインターフェースに基づいて組み合わせられる「Open RAN」がいよいよ本格的な勢いを見せ始めたことが印象深かった。Open RANは世界の通信事業者の間で次々と採用が始まり、調査会社の当初予想を上回るペースで成長している。Open RAN対応基地局をいち早く製品化し、国内で商用展開しているNECや富士通などの国内勢にとっても世界進出のチャンスが訪れている。

MWCで存在感を示した富士通
MWCで存在感を示した富士通
同社執行役員常務の水野晋吾氏(写真)らがイベントに登壇し、同社のOpen RAN対応基地局製品などをアピールした(撮影:日経クロステック)
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当初予測を上回る成長を見せるOpen RAN、MWCでも機運高まる

 「2030年までに欧州に展開している基地局の30%をOpen RAN対応にする」――。

 欧州の大手通信事業者である英Vodafone(ボーダフォン) CTO(最高技術責任者)のJohan Wibergh氏は、MWCで開催した講演の中で、このように語った。

 ボーダフォンの例ばかりではなく、ここに来て世界各国の通信事業者がこぞって、Open RANの本格採用やトライアルをスタートしている。

 米国のOpen RAN関連の新興ベンダーParallel Wirelessマーケティング担当Vice PresidentのEugina Jordan氏は、MWCの講演に登壇し「Open RANは立ち上がりから7年が経過し現実的になった。英GSMAの調査によると、アンケートに回答した通信事業者の約60%が今後1〜2年以内にOpen RANの展開を始める」と話した。

米Parallel Wirelessマーケティング担当Vice PresidentのEugina Jordan氏
米Parallel Wirelessマーケティング担当Vice PresidentのEugina Jordan氏
MWCの講演で「Open RANは現実的になった」と語った(撮影:日経クロステック)
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 現在の無線アクセスネットワーク(Radio Access Network、RAN)市場は、中国・華為技術(ファーウェイ)とスウェーデンのEricsson(エリクソン)、フィンランドのNokia(ノキア)という通信機器大手3社が8割近いシェアを占めている。Open RANは、この寡占を打ち破ることを目的の一つとして始まった。これまで難しかったさまざまな基地局製品を組み合わせられるOpen RANは、通信事業者に適材適所の選択の自由をもたらすため、急速に支持を集めている。

 業界の盛り上がりを受けて、今回のMWCではOpen RANをテーマにした多くの講演が開催された。Open RANの本格普及に向けた機運が業界全体で高まっていることを感じさせた。

 実際、米国の調査会社Dell'Oro Groupは22年3月、21年のOpen RAN市場の売上高が当初予想を大きく上回り、20年の2倍以上になったことを明らかにしている。同社は2026年にOpen RAN関連の基地局製品が、基地局製品全体の市場の15%を占めるまで成長すると予測する。

会場内で存在感を示した富士通、ドコモやDishと共にアピール

 実は、Open RAN導入で世界的に先行しているのは日本だ。NTTドコモと楽天モバイルの2社が、Open RAN仕様に基づいた基地局を展開しており、世界の注目を集めている。日本市場においてOpen RAN対応の基地局製品を商用展開するNECと富士通は、世界展開に向けて有利な立場にある。

MWC会場内に日本勢で最大規模のブースを出展した富士通
MWC会場内に日本勢で最大規模のブースを出展した富士通
(撮影:日経クロステック)
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 今回のMWCで、Open RAN製品の世界展開に向けた波ををうまくつかんでいたのが富士通だ。NTTドコモやソニーが会場出展を取りやめたことで日本勢の存在感が薄かった今回、同社は4年ぶりに会場内にブースを出展。入り口から近いホール2に日本勢として最大規模のブースを構え、Open RANやMWC直前に発表したvRAN(virtualized RAN)製品をアピールしていた。

 富士通のOpen RAN対応の基地局製品は、NTTドコモのほか米国の新規参入事業者として注目を集めるDish Network(以下、Dish)に採用されている。同社はMWCで自社イベントを開催し、NTTドコモやDishの幹部を交えて、Open RANのメリットをアピールした。

MWCの富士通イベントにリモート参加したNTTドコモ常務執行役員CTOの谷直樹氏
MWCの富士通イベントにリモート参加したNTTドコモ常務執行役員CTOの谷直樹氏
(撮影:日経クロステック)
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 NTTドコモ常務執行役員CTOの谷直樹氏は、日本からリモートで富士通のイベントに登壇。「ドコモは15種類、4社のベンダーの製品を組み合わせて5Gネットワークを展開している」と説明。さまざまなベンダーの機器を取り入れて柔軟なネットワークを構築できるOpen RANのメリットをフルに活用している事実を紹介した。

「Open RANは事前に聞いていたよりも、ずっと簡単だ」と話すDish CNOのMarc Rouanne氏
「Open RANは事前に聞いていたよりも、ずっと簡単だ」と話すDish CNOのMarc Rouanne氏
(撮影:日経クロステック)
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 パブリッククラウドであるAWSをフルに活用した5Gネットワークを構築することで注目を集めるDishは、Open RANに基づいた基地局も展開する。CNO(Chief Network Officer)のMarc Rouanne氏は「1カ月に1000カ所ベースで基地局を増やしている。Open RANは事前に聞いていたよりも、ずっと簡単に扱える」と話した。

 Open RANは、通信事業者に柔軟な選択肢をもたらす。その一方で、複数の機器をつないでエンドツーエンドで確実に動作させるためには、インテグレーションが不可欠と言われる。Open RANの普及にあたっては、このインテグレーションが課題になると指摘されてきた。

 富士通のイベントに日本からリモート参加したNTTドコモ無線アクセス開発部部長の安部田貞行氏は「新たな製品を追加しようとした場合、確かに今は非常に短い時間で済むようになった。しかし、19年時点では正直大変だった。ベンダーごとに実装の違いがあったりして、当時は相互接続試験に苦労した」と話す。

NECが出展した大規模なMassive MIMOに対応したOpen RAN対応無線機(RU)
NECが出展した大規模なMassive MIMOに対応したOpen RAN対応無線機(RU)
(撮影:日経クロステック)
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 NECもMWCの会場にブースを出展したものの、商談スペースがメインのつくりであり存在感は薄かった。ただ新たに出展したOpen RAN対応無線機(RU)「MB5460-m」は、初期のOpen RAN製品では難しかったサブ6GHz帯で64T64Rの大規模なMassive MIMOに対応。さらに環境負荷軽減に役立つファンレス構造を採用しており、注目を集めていた。

 現在、NECのOpen RAN関連のビジネスは、日本国内でのネットワーク運用の実績を武器に、国内外で5件の商用契約、22件のトライアル、30件以上の案件見通しに拡大したという。

 富士通も、ドコモやDishとの商用契約を含めて、国内外で13件のプロジェクトが進行していると明かす。両社ともに世界のOpen RAN市場において、波をうまくつかんでいる様子だ。