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 国土交通省が2016年にi-Constructionを打ち出して以来、建設各社はICT(情報通信技術)を駆使して、現場の生産性向上に取り組んでいる。建設業全体の生産性を改善するために鍵となるのが、地方の中小建設会社の底上げだ。「ノウハウを囲い込む時代ではない」という理念の下、所属や地域を越えて、中小の建設会社などへ建設ICTを伝道する2人の土木技術者に迫った。

 「将来、ICT施工が日本でそれほど浸透していないとしたら、私のせいだろう」。こう話すのは、正治組(静岡県伊豆の国市)土木部の大矢洋平部長だ。15人程度の建設会社の社員でありながら、社外の技術者を受け入れてOJT(職場内訓練)を実施したり、外部の講演を積極的に引き受けたりして、現場におけるICTツールの使い方やノウハウなどを技術者に広く“教育”している。

左が正治組土木部の大矢洋平部長。右はyasstyleの松尾泰晴代表。大矢部長はOJTをメインに、松尾代表は「土木の学校」を立ち上げてICTの活用法などを技術者に伝えている(写真:日経クロステック)
左が正治組土木部の大矢洋平部長。右はyasstyleの松尾泰晴代表。大矢部長はOJTをメインに、松尾代表は「土木の学校」を立ち上げてICTの活用法などを技術者に伝えている(写真:日経クロステック)
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 現在、那覇市に本社を置く南洋土建の社員を受け入れている。同社土木部の比嘉広太氏(26歳)だ。南洋土建はICT施工に取り組んでいたものの、キーマンだった専務が亡くなり、改革が道半ばとなっていた。そこで白羽の矢が立ったのが、専務の息子である比嘉氏だった。生前に比嘉氏の父親と大矢部長との間で技術交流があったことから、正治組でのOJTが決まった。

 もともとは美容師だった比嘉氏。土木の世界に転身して経験は浅い。それでも南洋土建でICT施工などを手掛けるために、大矢部長をはじめ正治組の技術者から、3次元データの作製方法や3次元測量のコツなどを教わっている。

写真奥が南洋土建土木部の比嘉広太氏。手前が正治組の大矢部長(写真:日経クロステック)
写真奥が南洋土建土木部の比嘉広太氏。手前が正治組の大矢部長(写真:日経クロステック)
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 他社の社員をOJTで受け入れること自体、珍しい。さらに際立つのが、受け入れの期間だ。なんと1年半にわたる。給料は南洋土建持ち。正治組は事務手数料以外、取らない。

 南洋土建にとっては、ICTの知見をたたき込まれた比嘉氏が戻ってくれば、自社でその知見を水平展開できる。一方、正治組にとってみれば、ただで教えているのでメリットはあまりない気がする。それでも、大矢部長は「実際に工事にも携わってもらえるし、若い社員をただで確保できるようなもの。自分にとっても、若い世代に教えることが勉強になる」と話す。

 比嘉氏のOJTの期間はこれまでで最長。ただ他にも1日や、1週間だけというパターンもある。「来るものは拒まず」と大矢部長は言う。