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 連載「建設資材高騰のカラクリ」では、これまで建設資材の価格動向と供給プロセスを深掘りしてきた。連載第9回の今回からは対策編。企業や行政が取り組むサプライチェーン(供給網)の改革事例を追う。今回取り上げるのはガラス大手のAGCだ。デジタルトランスフォーメーション(DX)を急ぐ理由はどこにあるのか。

 AGCは全社を挙げてDXに取り組んでいる。2017年に経営企画本部内にDX推進部を設置。18年に情報システム部や資材・物流部といった各事業部門の中にDXの推進組織を整備した。経営陣によるトップダウンと事業現場からのボトムアップの双方向からDXを進めている。

AGCは全社を挙げてDXに取り組んでいる。写真は横浜市鶴見区にあるAGC横浜テクニカルセンター(写真:日経クロステック)
AGCは全社を挙げてDXに取り組んでいる。写真は横浜市鶴見区にあるAGC横浜テクニカルセンター(写真:日経クロステック)
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 同社はDXを駆使して、ガラス製品の供給プロセスの川上と川下それぞれで改革を進めている。「いずれもコスト削減につながる取り組みだ」と資材・物流部プロフェッショナルの高橋正人氏は話す。

 供給網の川上である調達・製造過程から見ていこう。改革したのは原料と排水処理材の管理。ガラス製品は、受注予測を基にした生産計画を受けて原料などの調達計画を立てる。発注や納期管理、受け入れ検査や在庫保管などを経て、原料や排水処理材を使用するまでの過程で、在庫量を管理する必要がある。ガラス窯を連続稼働させ、安定した生産を続けていくために欠かせない過程だが、効率化できていなかった。

 この過程に、原料などの自動管理システム「Smart Inventory System」を取り入れた。自社開発のシステムで兵庫県に位置する関西工場高砂事業所と尼崎事業所に21年4月に導入。今後は海外のガラス工場にも展開する予定だ。

 システムは、固体である原料と液体である排水処理材の場合で仕組みが異なる。

 前者である原料在庫管理の仕組みはこうだ。ガラスの主原料である珪砂(けいさ)や、珪砂と共にガラス窯に投入する石灰石やアルミナなど全ての原料の容器に、データがひも付けられた無線自動識別(RFID)タグを取り付ける。倉庫の出入り口に設置したセンサーでタグ情報を収集。入出庫情報はVBA(Visual Basic for Applications)で処理し、原料の保管・使用履歴をリアルタイムで把握する。

原料在庫管理システムのフロー。RFIDタグ情報の収集には、沖電気工業(OKI)の920MHz帯マルチホップ無線「SmartHop」を採用した(資料:AGC)
原料在庫管理システムのフロー。RFIDタグ情報の収集には、沖電気工業(OKI)の920MHz帯マルチホップ無線「SmartHop」を採用した(資料:AGC)
倉庫の出入り口に設置したRFIDリーダーで原料の容器に取り付けたRFIDタグを読み取る(写真:AGCの写真に日経クロステックが加筆)
倉庫の出入り口に設置したRFIDリーダーで原料の容器に取り付けたRFIDタグを読み取る(写真:AGCの写真に日経クロステックが加筆)
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 一方、排水処理材として使用するカセイソーダや塩酸といった液体については、タンクに取り付けたセンサーでデータを取得する。ゲートウエイ機器を使って、遠隔地からでもタンク残量をリアルタイムで把握。在庫管理表の更新やサプライヤーへの発注を自動化した。

タンク在庫管理システムのフロー。ゲートウエイ機器はコンテックの「CONPROSYS(コンプロシス)TMシリーズ」を採用した(資料:AGC)
タンク在庫管理システムのフロー。ゲートウエイ機器はコンテックの「CONPROSYS(コンプロシス)TMシリーズ」を採用した(資料:AGC)
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 AGCでは自動管理システムを導入するまで、担当者が目視で原料や排水処理材の在庫量を確認していた。在庫量を把握するのに膨大な時間を要するうえ、目測の残量を基に調達計画を立てるため、熟練の経験と勘が求められた。

 さらに、「近年はガラスの多品種化が求められるようになり、原料の調達計画が複雑になっている」と資材・物流部の田中卓弥氏は話す。ガラス窯の数は限られているため、1つのガラス窯でも原料のブレンドを変えて異なる品種を製造する必要がある。「どの品種をどのタイミングで生産するのか。生産計画が複雑になったことに伴い、原料の調達計画を見直す頻度も増加した。原料などの管理業務の効率化は急務だった」と田中氏は背景を話す。

 自動管理システムを導入してから約1年。原料などの管理業務の作業時間を年間1000時間削減した。また、「管理レベルが上がったため、原料の在庫を減らしても連続稼働できる」と高橋氏は手応えを口にする。今後は蓄積した原料データと製造オペレーションの情報を連携させて、ガラス製品の品質やコストの向上につなげていく考えだ。

 次に供給網の川下であるガラス製品の輸送を見ていこう。