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 セメント製造の燃料に使う石炭の価格高騰が続く一方で、セメント業界が対峙する難題の1つが製造設備の老朽化だ。最大手の太平洋セメントは点検技術のデジタルトランスフォーメーション(DX)に乗り出し、供給体制の安定を確保する。

 太平洋セメントは2022年度から、埼玉県熊谷市の熊谷工場で製造設備の主要部における故障予測システムの本格運用を始めた。ドローンで設備表面の異常を検知するほか、センサーで取得したデータを人工知能(AI)で解析。故障の予兆を見極めて事前に対策を打つ。

ドローンがロータリーキルンの鋼製リング表面を撮影する様子(写真:太平洋セメント)
ドローンがロータリーキルンの鋼製リング表面を撮影する様子(写真:太平洋セメント)
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 セメント製造のプロセスのうち、石灰石やけい石などの原料を1450度超の高温で焼成し、クリンカーと呼ばれる中間生産物を造る焼成工程にこのシステムを導入した。

埼玉県にある太平洋セメント熊谷工場。写真下部にロータリーキルンが見える。年間約170万トンのクリンカーを製造し、全国の供給量の約3%を占める(写真:太平洋セメント)
埼玉県にある太平洋セメント熊谷工場。写真下部にロータリーキルンが見える。年間約170万トンのクリンカーを製造し、全国の供給量の約3%を占める(写真:太平洋セメント)
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 監視対象は、この工程に使う「ロータリーキルン」と呼ばれる回転式の巨大な釜だ。内側に耐火れんがが張られた円筒形の鋼管をゆっくり回転させながら、内部で燃料を燃やす。上部に投入された原料はロータリーキルンの中で徐々に下方へ移動しながら焼成され、クリンカーとなって取り出される。

 ロータリーキルンはセメント製造プロセスの心臓部である分、負荷も大きい。焼成時の内部温度は1450度に達する上、原料の移動や回転に伴って常に振動にさらされる。回転するキルンを支えるローラーと接する直径約7mの鋼製リングは、表面の摩耗など劣化が進みやすい。

 鋼製リングを取り換えるのには予備のリングがあっても2~3週間かかる上、キャッシュフローの観点から持てる在庫も限られる。「仮にリングを発注しなければならない場合は、納品に1年以上かかってしまう」。太平洋セメントの日高幸史郎常務執行役員は危機感をこう語る。

 そこで同社はドローンを飛ばし、回転する鋼製リングの表面をドローンに搭載したカメラで撮影。得られた画像を解析して、ひび割れや摩耗などを検知する。画像解析の精度を磨き、現在は大きさ1mm程度の異常を検知できるという。

 さらにキルンと連動する機器30台以上に、振動計や温度計、配管の流量計など5~6種類のセンサーをそれぞれ取り付けた。無線LANを介してセンサーのデータを集め、時系列上の変化をAIで解析する。

 同社はこれまでに過去のデータを使って予測技術を検証しており、設備に異常が生じる数カ月前から異常値を示すデータを特定している。今後、故障の前兆を1~2週間前から事前に察知し、設備復旧までの時間を短くする。製品の出荷予定を勘案し、キルンの運転計画を変えるなどして供給量を安定させる。