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 なぜみずほ銀行でシステム障害が繰り返されるのか――。世間で繰り返されるその問いかけには2つの側面がある。1つは2021年2月28日からの12カ月で11回ものシステム障害が連続したことに対する問いかけだ。もう1つは2002年、2011年、2021年とほぼ10年おきに大規模なトラブルが繰り返されたことに対する問いかけである。

 そもそもみずほ銀行は1999年に経営統合を発表してからこれまでの間に、情報システムに関連する4種類の大きなトラブルを経験してきた。3回の大規模システム障害と、システム刷新プロジェクトの度重なる遅延である。

 情報システムに関連するトラブルは他の金融機関でも起こっているが、大きなトラブルを頻発させたのはみずほ銀行だけだ。なぜ、みずほ銀行でだけ大きなトラブルが繰り返されるのか。今回は理解を深める前提として、4種類のトラブルの性質を整理していく。

表 みずほ銀行で起きた4種類のシステム関連トラブル
時期トラブルの種類トラブルの内容直接的な原因根本的な原因
2002年
4月
大規模システム障害ATM障害、二重引き落とし、口座振替の遅延、振り込みの遅延、口座残高の不整合ソフトウエアのバグ、ソフトウエアの検証不足、振り替えデータの誤り経営陣の情報システムに対する無理解、過度なスケジュール優先による時間不足、旧行間の連携不足
2011年
3月
大規模システム障害ATM障害、口座振替の遅延、振り込みの遅延口座設定の誤り、夜間バッチ処理の失敗、システム復旧オペレーションの誤り勘定系システムの老朽化・ブラックボックス化、システム復旧手順の未整備、訓練不足
1999~2019年システム刷新プロジェクトの遅延システム刷新計画の迷走、システム開発の遅延甘い計画立案、不十分な要件定義、要件定義や開発・テストの長期化経営陣の決断不足・理解不足、プロジェクトマネジメント能力やITガバナンス能力の不足、リテール事業の収益悪化
2021~2022年連続システム障害ATM障害、窓口サービス停止、インターネットバンキング停止、振り込み遅延、法令違反ソフトウエアの設定ミス、ソフトウエアのバグ、ハードウエア故障、ハードウエアの性能不足、法令についての無理解【金融庁が指摘する「真因」】システムに関するリスクや専門性の軽視、IT現場の実態軽視、顧客影響に対する感度の欠如、営業現場の実態軽視、言うべきことを言わない、言われたことだけしかしない姿勢
【その他の原因】勘定系システム「MINORI」の複雑さ

2002年4月のシステム障害は「経営陣の無理解」が原因

 まずみずほ銀行で2002年4月に発生した1回目の大規模システム障害は、銀行の経営統合に際して生じたものだった。第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行の旧3行が経営統合してみずほ銀行とみずほコーポレート銀行が発足した際に、ATMが使えなくなったり二重引き落としが発生したり、大量の口座振替が遅延したりするトラブルが発生した。

 トラブルの直接的な原因や根本的な原因は比較的シンプルだ。直接的な原因としては、旧第一勧銀と旧富士銀の2つの勘定系システムを連係させる仕組みや、口座振替の処理を旧3行の勘定系システムに振り分ける仕組みにバグや問題があった。根本的な原因としては、経営陣の情報システムに対する無理解があり、無理のあるスケジュールでシステム統合を強行したことなどがあった。

 実は当時、同じく経営統合したばかりのメガバンクで、似たようなシステム障害が発生していた。みずほ銀行よりも一足早く、三和銀行と東海銀行が統合して2002年1月15日に発足したUFJ銀行(現三菱UFJ銀行)だ。スケジュールで無理をした結果、トラブルが発生したという原因もみずほ銀行と似ていた。

 もちろん、みずほ銀行のほうがシステム障害の規模が大きく、システム統合を巡る方針が二転三転した度合いも大きかった。それでも2002年当時においては、みずほ銀行だけが特殊な状況だった、というわけではなかった。

2011年3月のシステム障害は「勘定系のブラックボックス化」が原因

 東日本大震災直後の2011年3月にみずほ銀行で発生した2度目の大規模システム障害は、勘定系システムにおける夜間バッチ処理でトラブルが生じ、オンラインにも影響が及んだ。夜間バッチ処理が1週間近く未完了になったり、何日もATMが使えなくなったりするほどの大規模システム障害は、日本の金融機関では他に例がない。