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 金融庁によれば日本の金融機関は2020年の1年間だけで、約1500件ものシステム障害を起こしている。それでもみずほ銀行のシステム障害だけが世間で注目されるのは、単に回数が多かっただけでなく、顧客に与えた影響が大きかったからだ。

 逆の視点で見るとみずほ銀行以外の金融機関では、システム障害のインパクトを極小化する「ダメージコントロール」が機能しているということになる。みずほ銀行と他のメガバンクにおけるシステム安定稼働対策を比較すると、様々な違いが見えてくる。

 はっきり異なるのは、システム障害に対する備えだ。

みずほ銀行と他のメガバンクで異なる点
みずほ銀行他のメガバンク
勘定系システムのベンダーマルチベンダーシングルベンダー
勘定系システムのアーキテクチャーメインフレーム、UNIXサーバー、Linuxサーバーを併用。システムは疎結合元帳を扱うシステムはメインフレームで稼働。周辺システムのみオープン化。システムは密結合
システム運営体制アプリケーション開発・保守は子会社のみずほリサーチ&テクノロジーズ(MHRT)が担当するが、運用担当のMIデジタルサービス(MIDS)は日本IBMが65%出資システム子会社やシステム運用子会社が担当
システム障害発生時の対応エラー発生状況などを表示する統合運用監視システムはMIDSのみが使用。MIDSはエラー発生状況をMHRTに電話で連絡。MHRTでは担当者が会議室に集まりホワイトボードを使ってエラー発生状況を共有エラー発生状況などをコンピューター上で把握できる「危機対応ルーム」を銀行本体やシステム子会社内に常設。同ルーム内で開催する障害対応会議にはリモート参加も可能。在宅勤務でも稼働系システムのエラー対応ができるメガバンクも存在
障害対応訓練復旧手順の確認のみデータセンターの切り替え訓練を年に1回は実施。各サブシステムの稼働系/待機系の切り替え訓練なども実施
ハードウエア更新6年以上稼働中。中には10年使用するものもメインフレームは10年に1度、オープン系のサーバーは6~7年で更新

他行はシステム障害訓練を充実

 みずほ銀行は勘定系システムの「MINORI」稼働後、システム障害を想定した訓練をしていなかった。それに対して他のメガバンクは、高可用性が求められるシステムについては年に1回必ずシステム障害を想定した訓練をしていた。しかも運用手順を確認するといった形式的な訓練ではなく、開発・テスト機を使って実際に稼働系から待機系に切り替えてみるといった実戦的な訓練内容だった。

 みずほ銀行は2021年8月20日に発生したシステム障害の際、事前に想定していない手順で稼働系システムを災害対策用データセンターに切り替えた。ここから分かるのは、データセンターの切り替え訓練をしていなかったことだ。

 それに対して他のメガバンクの中には、データセンターを災害対策用のデータセンターに切り替える訓練をしているところもある。ただし、災害対策用データセンターを起動する手順を確認するといった内容にとどまっている。実際にシステムそのものを災害対策用データセンターに切り替える訓練を実施しているメガバンクはなかった。

日常的にデータセンターを切り替える銀行も

 日本の銀行の中には、東京と大阪にあるデータセンターを定期的に切り替えているところがある。セブン銀行だ。

 同行は2018年から勘定系システムを「東阪交互運用方式」で運用している。東京と大阪の各データセンターに同じ構成のシステムを用意し、両方とも本番系として文字通り交互に切り替えて運用する形態だ。両データセンター間でデータベースの内容を同期しており、わずか30秒のダウンタイムで切り替えられる。

 これはもはや、大規模災害を想定したデータセンターの切り替え訓練を日常的にしているのと同じだ。また、一方のデータセンターを即時に他方のデータセンターに切り替えられる特性を生かして、勘定系システムの365日の無停止連続稼働も実現している。片方のデータセンターに処理を切り替えている間に、もう一方のデータセンターでシステムのメンテナンスを実行するといった具合だ。

他行はITを駆使した情報共有の仕組みを用意

 システム障害に対応する体制にも違いがある。

 みずほ銀行は2021年2月28日にシステム障害が発生した際、ATMのトラブルなどに素早く対応できなかった。大きな原因は、みずほ銀行本体やシステム開発子会社であるみずほ情報総研(当時)、日本IBMの子会社であるシステム運用会社のMIデジタルサービス、外部委託しているATMセンターとの間で情報共有がうまくいかなかった点にある。システム監視を担うオペレーターがエラー内容を上司に報告する手段は紙の書類、組織を超えた情報共有手段は電話のみ、部署内での情報共有手段は会議室のホワイトボードといった具合だった。