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 2020年3月から急拡大した新型コロナウイルス感染症は、見直しへの抵抗が強い「岩盤規制」に幾つかの穴を開けた。例えば、食事や飲料などのフードデリバリーに限って、タクシーが同じ車両で移動客も荷物も運べる「貨客混載」が限定的に認められた。国土交通省は人を運ぶ「旅客」と物を運ぶ「貨物」の兼業を原則として認めてこなかった。

 しかしこの新型コロナ特例も、延長が議論されなければ2022年9月で終了する。一方、コロナ禍で宅配便やデリバリー需要が急拡大しドライバー不足が深刻化しても、全く変わらない規制がある。個人では普通車やそれより大きい自家用車が貨物運送に事実上使えないという規制である。

 荷主と自家用の車両を活用したい個人を素早く柔軟にマッチングするなど、デジタル技術を使った新たな物流サービスが登場している。しかしデジタル活用を想定していない「アナログ規制」が新サービスの拡大を阻んでいる。

 政府内で規制見直しの議論は始まった。しかし議論のスピードは遅いうえに、規制を所管する国交省は見直しに後ろ向きとみられている。自家用車を旅客に使う「ライドシェア」の解禁はタクシー業界が断固阻止を掲げたほか国交省も取り合わず、日本では議論すら封じられた。「物流版のライドシェア」でも、デジタル技術の活用は大きな制約を受け続けるのか。

個人が貨物に使えない普通車、使える軽自動車

 自家用車の活用は、主にIT関連企業で構成する日本IT団体連盟(IT連)や経済同友会から検討を求める声が出ている。声を受けて2020年11月に政府で議論が始まった。議論の場は、首相が諮問する会議体で、規制打破を成長戦略につなげるための規制改革推進会議である。

 経済界が要望するのは、ラストワンマイルと呼ぶ近距離物流にフォーカスして規制を見直すことだ。新型コロナ禍でEC(電子商取引)やフードデリバリーの取り扱いが急増しただけでなく、オンライン配送専用の店舗「ダークストア」や実店舗から日用品を短時間で配送する「クイックコマース」が新市場を形成しつつあるなか、ラストワンマイルでは貨物量が劇的に増えているからだ。

近距離の物流シェアリングサービスの様子。サービス事業者が個人に車両を貸し出したりリースで提供したりするほか、個人が自らの車両を持ち込むケースも多い
近距離の物流シェアリングサービスの様子。サービス事業者が個人に車両を貸し出したりリースで提供したりするほか、個人が自らの車両を持ち込むケースも多い
(出所:CBcloud(左)、出前館(右))
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 旅客とは異なり、物流の分野では車両を柔軟に活用するシェアリングサービスが、一定の制約はあるものの成長している。運転手や運び手を担うのは、個人が業務委託やアルバイトで働く「ギグワーカー」たちだ。

 これらの運び手と飲食店や店舗など荷主をマッチングするのが配送のプラットフォームサービスである。こちらも、ダークストアやクイックコマースの登場とともに新規参入が増えている。IT連や経済同友会などが改革を求めるのも、ネットの活用で物流への需要が大きく変わり人手不足などが深刻さを増しているのに、制度が全く変わろうとしていない点にある。

 ただし物流のシェアリングサービスで使える車両は、自転車と自動二輪車、軽トラックを含む軽自動車までにほぼ限られる。個人が保有する普通車やトラックなどは事実上、業務用車として登録できない。

 国交省の調べによると、運送業者が管理する貨物運送用の車両は2019年度末で146万台弱ある。一方、経済同友会はトラックに限っても自家用のうち41万台程度が貨物運送にも活用できるとみている。フードデリバリーなど限定した用途ならば、利用できる車両や参加できる働き手は増える。