新型コロナウイルス感染症の第7波により検査を求める人が増えるなか、2022年8月末から抗原検査キットのネット販売が始まった。厚生労働省が2022年8月17日、医療用だった検査キットを一般用医薬品(OTC)として販売を認めたことを受けた動きである。9月5日時点で厚労省は4製品の市販を認めている。
歓迎できる動きではあるが、リスクに応じて医薬品の購入機会をネットにも広げる「アナログ規制」見直しの観点からすると、厚労省が引き続き医薬品のOTC化に消極的であることが鮮明になった格好だ。厚労省は今回のOTC化はあくまでも新型コロナに限定した特例的な措置と位置付けているからだ。
2022年冬には季節性インフルエンザが日本で新型コロナと同時流行する恐れが高まっている。しかし季節性インフルエンザに対応する抗原検査キットのOTC化について、厚労省は「現時点で検討の予定はない」(医薬・生活衛生局医療機器審査管理課)としている。
医療用では新型コロナと季節性インフルエンザを一度に検査できる便利な製品もある。なぜインフルエンザの抗原検査キットは今後もネットはおろか薬局の店頭でも買えないのか。
同時流行向けの抗原検査キット、市販では入手できず
感染症を簡易に検査できる抗原検査キットは、そもそも医師が診療行為に使う医療用しか認められていなかった。新型コロナの感染拡大を受けて、厚労省が規制見直しに着手してから検討に1年を費やし、ようやくネット販売を含むOTC化に着地した。
最初の規制見直しは2021年9月。新型コロナに限定した特例措置として、医療用の製品を薬局で薬剤師が対面販売できるようにした。感染を判定できる製品を消費者が購入できるようになったのはこの時からだ。ただこの時点で既に、厚労省の承認を得ておらず、性能が確認されていない「研究用」の製品がネットやドラッグストアに出回っていた。
オミクロン株による第5波の感染拡大が続いた2021年末には、ネット販売解禁を含めた見直し議論が政府の規制改革推進会議で進んだ。しかし厚労省が使い方の指導を徹底する必要があるなどOTC化に慎重だったため、同会議は早期の結論を見送り、厚労省に対し2022年9月までに改めて検討するよう求めた。厚労省はその期限前にOTC化を認める結論を出した。
とはいえ厚労省のこの見直しは新型コロナに限った話。季節性インフルエンザの感染判定に使える抗原検査キットは引き続き医療用に限る考えだ。フォローアップのために2022年8月31日に開かれた規制改革推進会議の場でも、厚労省の担当者は「現時点では見直しを検討していない」という趣旨の発言をしたという。
抗原検査キットは新型コロナ向けも季節性インフルエンザ向けも判定の仕組みが類似しており、重症化する人の割合など「リスクはむしろ季節性インフルエンザ向け抗原検査キットのほうが低い」との指摘もある。両方の感染症を一度に検査できる便利な製品は「コンボキット」や「ツインチェック」などと呼ばれ、医療用では多くのメーカーが製品化する。ただし、やはり性能が確認されてない研究用も出回っており、「良貨」すら手に入らない消費者に「悪貨」が広まる恐れがある。
一般に、医療用製品のOTC化は、医師らが反対に回るケースがあるとされる。診察と診療報酬を得る機会が減るからだ。
しかし現場の医師は抗原検査キットのOTC化に賛成意見が多いようだ。医療関係者向け会員制サイトを運営するエムスリーが2022年8月下旬までに会員の医師・薬剤師に対して実施した調査によれば、新型コロナ向け抗原検査キットのOTC化は開業医の66.7%が、勤務医の70.3%が賛成だった。
季節性インフルエンザ向け抗原検査キットについても賛成はそれぞれ65.3%、71.6%と、新型コロナとほぼ同じ結果だった。回答した医師からは「(両方の検査キットを)早くOTC化して、医療機関の負担を減らすべきだ」などの声が出ている。エムスリーは「コロナ禍で医療逼迫が繰り返されたこともあり、検査キットが入手しやすくなることを肯定する医師が多いようだ」と分析する。