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 紙による書面交付を原則とする「アナログ規制」が、さまざまな消費者向けサービスで消えようとしている。契約書の交付や重要事項の説明を、紙の書類でなく原則として電子データの形とし、オンラインで完結できるようにする「デジタル原則」へと切り替える法改正が、複数の分野で進みつつあるからだ。

 そのなかで、「(紙の)書面の交付が原則である」との考え方で、書面の電子交付を紙に近づけようと議論している分野がある。消費者庁が所管する特定商取引法(特商法)で契約書面交付を義務付けている、訪問販売や契約継続型サービスなどの分野だ。例えばオンラインの学習塾やIT講習などの教育産業、ホーム・セキュリティー・サービスなどが該当する。

 2022年7月28日に開かれた消費者庁の有識者会議「特定商取引法等の契約書面等の電子化に関する検討会」で議論された案に基づくと、スマートフォンの利用者には実質的に契約書をオンラインで交付できなくなる恐れがある。電子データの契約書は「(紙の)書面のイメージと同じ」(第5回検討会の論点整理)とし、利用者の端末が「書面並みの一覧性(=面積)を有する形で(中略)表示可能な機器」(同)であるかを確認したうえで契約書を電子交付する案が検討されているからだ。

 同検討会で消費者庁は、適合する端末の画面サイズについて、A4サイズの契約書を一覧できるように「11インチぐらい」(第5回検討会の議事録)を考えているとした。契約書を電子交付できる条件として、画面サイズの制約を検討しているわけだ。

特定商取引法で契約書面の交付を義務付けているサービスの例
(出所:消費者庁の施行令などを基に日経クロステック作成)
該当サービス対面型の例オンラインサービスの例(申し込み対応を含む)
訪問販売に該当
自宅などの警備サービス対面販売のホームセキュリティー自宅での見積もりを伴うオンライン申し込みのホーム・セキュリティー・サービス
特定継続的役務(月額5万円相当、契約期間が2カ月以上のサービスが対象)
語学英会話教室オンライン語学サービス
IT講習パソコン教室オンラインIT講習サービス
学校教育の補習学習塾オンライン補習サービス
結婚希望者への異性紹介結婚相談所異性マッチングサービス
美容サービス(契約期間1カ月以上が対象)美容サロンオンライン申し込み型のサロン

データ充実こそが「利用者本位」、金融はデジタル重視へ

 消費者サービスにおける書面の「デジタル原則」は、決済サービス業界が先陣を切っている。経済産業省が所管し2021年4月に施行した改正割賦販売法(割販法)では、バーチャルカードの発行など手続きがオンラインで完結する決済サービスは利用明細書を原則としてオンラインで発行することを認めた。

 決済サービス各社が会員向けのサイトやスマホアプリを充実させて、利用者の多くが活用している状況を踏まえた規制見直しだ。改正により利用者の承諾がなくても明細書をデジタルで交付できるようになった。

 改正割販法の施行後、明細書の郵送を希望する利用者には自ら申し込むよう求める決済サービス会社が増えている。明細書の郵送手数料を取る、もしくは明細書のオンライン発行にポイントを与えるなど、両者のコスト差を利用者に反映する例も増えている。

 金融庁もデジタル原則の方向に進む。金融商品の目論見書を利用者の承諾がなくても電子交付できるようにする案を、同庁が設置する金融審議会の市場制度ワーキング・グループ(WG)で議論しているからだ。興味深いのは、まだ概念の段階ながら、金融機関にデジタル技術を活用して利用者への情報提供を充実させるよう求める案が出ている点だ。

 同WGは、目論見書を紙の書類の体裁のまま電子データ化しても、それは「利用者本位の改革」ではないと指摘している。具体案は示していないものの、例えば金融商品の重要な事項をデータの形でも提供し、デジタルツールを使って比較しやすくするといったデジタル化が、利用者本位の改革に該当すると考えられる。今後具体的な議論が進むとみられる。

契約書の電子交付は不便になる方向に

 金融庁などと正反対ともいえる認識で契約書面のデジタル化を議論しているのが消費者庁だ。改正特商法内で2023年6月までに施行される予定で、前述の有識者会議がより詳細なルール化の議論を進めている。改正特商法では消費者の承諾を得た場合に「例外的に書面の交付に代えて」(第5回検討会で示した報告書案のイメージ)、電磁的方法で契約書を交付できる改正を盛り込んだ。

 第5回検討会までの論点整理では、冒頭に示した通り、電子的な契約書を紙の契約書と同一の内容、サイズで端末に表示させる案が出た。ほかにも、契約書の電子交付は「書面と同等の消費者保護機能を発揮する観点」(第5回の論点整理)からさまざまな規制案が出ている。