厚生労働省は2022年11月28日、新型コロナウイルスと季節性インフルエンザの感染を同時に調べられる抗原検査キットについて、一般用医薬品(OTC)として市販を認める措置を決めた。薬剤師が購入者に助言や確認をしたりする前提で、ネットでも販売できるようになる。
新型コロナと季節性インフルの同時検査キットはこれまで医療機関に向けた「医療用」製品しか承認されていないが、今冬は新型コロナと季節性インフルが同時流行し医療機関が逼迫する恐れが高まっている。自己での検体採取に向いている鼻腔(びくう)をぬぐう製品を対象にOTCを認める方針に舵(かじ)を切った。
しかし厚労省は医療逼迫を避ける特例的な措置との立場を変えず、抗原検査キットを巡る矛盾はなお残っている。抗原検査キットは「リスクが高い医療用製品だ」として、引き続きネット販売を含む市販を制限する厚労省の「アナログ規制」に正当性はあるのか。
繰り返す「医療逼迫」→「規制見直し」
同時検査キットのOTC化は11月22日、新型コロナ対策を厚労省に助言する「アドバイザリーボード」が医療逼迫を避ける手段の1つとして、厚労省に対して検討を求めていた。これを受けて厚労相の諮問機関である薬事・食品衛生審議会の専門部会が11月28日に議論し、メーカーや販売店がOTC化で守るべきガイドライン案などを了承した。
現在医療用として提供されているメーカーの製品は12種類ある。このうち4社の5製品は、奥まで綿棒を入れる鼻咽頭ではなく浅い鼻腔で検体を採取するなど、OTCのガイドラインの基準を満たすという。厚労省は今後、メーカーからOTC向け製品の申請があれば速やかに審査し、12月上~中旬にも承認される見通しだ。ネット販売も同時期に始まる。
同様の手続きは、新型コロナ単体の抗原検査キットをOTC化した8月にも採っている。医療逼迫に直面してから、ようやく「アナログ規制」を緩和するという流れも同じだ。当時は7月ごろから拡大した新型コロナ感染の第7波を受けて、厚労省が新型コロナ単体の抗原検査キットのOTC化を専門部会で審議。8月末に認めた。
実はこの8月時点で、同時検査キットのOTC化も検討を進めるよう求める声が出ていた。この頃既に、季節性インフルが今冬に新型コロナと同時流行する可能性が高いと予測されていたからだ。
政府の規制改革推進会議が厚労省に対し、OTC化を検討するよう求めたが、厚労省の担当者は「現時点でOTC化の検討は予定していない」と否定的な回答をしている。その後も規制改革推進会議が厚労省の担当者を出席させてOTC化を議論したほか、国会でも取り上げられた。11月ごろに始まった第8波の拡大で、季節性インフルとの同時流行が現実味を帯びてきたことで、ようやく厚労省が方針を転換させた。