SF映画のような未来感からこれまで話題が先行していた、空中ディスプレー技術の社会実装が、コロナ禍での非接触ニーズを追い風に立ち上がりつつある。先行するのは、センサーと組み合わせたタッチパネル代替の用途だ。背景には、光学結像素子の技術改良による映像品質の向上とコストダウンがある。タッチパネル代替では公共端末のみならず、工場など汚れた手でのタッチ操作が必要な現場での導入も想定され、そのほか、車載やサイネージ、エンタメなど他用途への展開の期待も大きい。
しかし一方で、コストや視野角の狭さなど普及に向けて解決すべき課題も多い。今後問われるのは、コストアップに見合うだけの映像が浮く価値の提供だ。
実はこの技術は世界でも日本勢が先頭を走っており、国内において国際標準化に向けた活動が進められている。日本発の「次世代ディスプレー技術」として花開くのか。最前線を追った。

大化けするか、空中ディスプレー
目次
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コストで有利な空中ディスプレーは再帰性反射、映像品質はコレ
空中ディスプレー用の「パッシブ(受動)型光学素子」は、方式に応じて「映像品質」「システムを構成した際のサイズ」「コスト」などにおいて一長一短がある。各方式の特徴や最新の取り組みなどを見ていく。
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何もない場所に映像どう浮かす? 複数方式競う空中ディスプレー
空中ディスプレーの中核部品である「パッシブ(受動)型光学素子」には、主に4種類の方式があり、その方式に応じて光学システムの構成や特性などが異なってくる。機器の設計者はそれぞれの長所・短所をよく理解しておく必要がある。
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空中映像のぼやけをAIで補正、錯覚利用の「疑似触覚」も登場
空中ディスプレーは社会実装が始まったとはいえ、今後の普及に向けて、パッシブ(受動)型光学素子の大型化や低コスト化以外に解決すべき技術課題も多い。また、非接触インターフェースとして使う際には、物理的なフィードバックがないためユーザーが操作に戸惑うことがあるという指摘も出ている。
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大日本印刷、ホログラムで空中ディスプレー風 安価に実現
新型コロナウイルス禍での非接触ニーズの高まりから、社会実装が始まっているパッシブ型光学素子を使う空中ディスプレー技術。空中に映像を浮かす見た目のインパクトも手伝って採用が広がっているが、非接触入力の実現にはコストが高い、光学システムの新規導入が必要、システムのサイズが大きい、などの課題がある。
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輝度iPadの10倍 マクセル、空中映像専用ディスプレーで品質勝負
「空中ディスプレーはこれまで、映像が暗い、ぼけているというのが一般的な評価で商品性に乏しかった。最近になってようやく高輝度なものができて、これからは車載を含めさまざまな用途で評価が進んでいくだろう」。
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日本独走の「空中ディスプレー」、国際標準化で中国追撃に対抗
「映像品質の良しあしはまさに一目瞭然で、それが直接、競争力になる。性能を左右するのは、光学設計、精密加工、高機能材料といった技術で、今のところこれらの技術に強い日本企業が独走している。日本が強みを発揮できる産業分野として打ち出していける」
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実在感を重視した空中立体ディスプレー、等身大の表示を目指す
空間サイネージ事業などを手掛けるベンチャー企業のSpacial(スパシアル、東京・中央)は、3D映像を空中に表示させ立体視できるようにする空中立体結像装置「Spacial」を開発した。既存の空中ディスプレーよりも輝度が高いなど見やすさを重視したほか、空間音響システムなどと組み合わせることで「実在感…
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完全非接触で台頭、空中ディスプレー 「感染症対策+α」探る
「光学素子、システム設計、コスト。これらのピースがそろい、やっと社会実装の一歩を踏み出した。これをきっかけに水平展開を進めていく」
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空中表示装置が壁そのもの、アルプスアルパインが加飾印刷で実現
一見すると、木目調の家の壁。しかし、住人が近づいて空中で指を動かすと玄関の扉が開いた--。こんな未来感のある“隠れた入力デバイス”が今後、社会に広がっていくかもしれない。
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ボタンが空中に浮き出るエレベーター 東京の新ビルで22年8月に
2022年8月、東京駅前に地上45階の高層複合ビル「東京ミッドタウン八重洲」が竣工する。ポストコロナ時代の最先端オフィスをうたうこのビルのオフィス棟では、感染症対策のために完全タッチレスの仕組みが導入される。
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レジ本体が消える、セブンが空中ディスプレーに見た可能性
小売業で国内最大となる2万1000店以上のコンビニエンスストアを展開するセブン-イレブン・ジャパン。その本社近くに位置する直営店「セブン-イレブン麹町駅前店」の一角に、世界に類を見ないセルフレジ(来店客が店員を介さずに自分で商品のバーコードを読み取って決済する端末)が設置されている。