全4665文字
PR

 「光学素子、システム設計、コスト。これらのピースがそろい、やっと社会実装の一歩を踏み出した。これをきっかけに水平展開を進めていく」

 アスカネットの空中結像用光学素子「ASKA3Dプレート」の開発者である大坪誠氏(空中ディスプレイ事業部研究開発チームスペシャリスト)は、感慨深げにこう語る。同プレートは、2022年2月にセブン-イレブン・ジャパンが東京都内の6店舗で実証実験を開始した、キャッシュレスセルフレジ「デジPOS」に採用された。まだ実証段階とはいえ、国内で2万1000店舗以上を展開するセブン-イレブン・ジャパンでの採用は大きな意味を持つ。

セブン-イレブンに空中ディスプレー
セブン-イレブンに空中ディスプレー
セブン-イレブン・ジャパンが22年2月に東京都内の6店舗で実証実験を開始した、空中ディスプレー技術を採用するキャッシュレスセルフレジ「デジPOS」。映像品質は良好で、初めて使う人にも大きな違和感なく使える。(写真:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 同氏が空中ディスプレー技術を世に送り出すためにアスカネットに入社したのは11年のこと。以来、「展示会に多数出展して話題にはなるものの、社会実装は進まなかった」(大坪氏)

 アスカネットに光学素子向けの接着剤を提供し、デジPOSの開発以前からともに用途開拓を検討していた三井化学の吉田寛則氏(フード&パッケージング事業本部コーティング・機能材事業部接着剤グループ先進封止材チーム課長)も「初めて見た瞬間、これはすごいと思った。でも、どう使っていいのか分からなかった。装置を会社の机の上に置いて日々、思案していた」と振り返る。見た目のインパクトと社会実装で求められる現実には大きな乖離(かいり)があったのだ。

 この状況を一変させたのが、新型コロナウイルス感染症対策としてにわかに立ち上がった「非接触ニーズ」だ。公共施設や病院、店舗の受け付け端末や銀行のATMなどで導入が始まった。空中ディスプレー技術を長年研究している東京大学工学部電子情報工学科教授の苗村健氏は「非接触という特性が安心・安全につながるのがブレークスルーだった」と語る。

 ATMを開発・販売する日立チャネルソリューションズ(旧日立オムロンターミナルソリューションズ)メカトロビジネス推進センタ営業部係長の飯田誠氏は、「ATMのタッチパネルは抗菌処理をしているものの、本当に清潔なのか疑問の声もあった。完全に非接触のインターフェースが必要という認識が導入の背景にある」と話す。

 空中ディスプレー技術を使ったインターフェースは完全に非接触なうえ、運用上のメリットももたらす。「例えば、病院の自動受け付け精算機などは、感染症対策で来院者が使う度にアルコールで除菌している。その作業が不要になる」(飯田氏)。

 もちろん、空中ディスプレーの魅力は「非接触」のインターフェースを実現できる点だけにあるわけではない。空中に実際の映像(実像)を出現させるという「驚き」「インパクト」も重要な要素だ。「店舗の端末で大規模案件が進んでいるほか、自動販売機メーカー、美術館など引き合いが多い」(大日本印刷情報イノベーション事業部DXセンターの尾高陽介氏)

 市場の主流は非接触インターフェースだが、これ以外にも、サイネージやエンターテインメント系の端末、そして将来は車室内空間への展開を期待する声も多い。「空中像では、これからいろんな研究開発が始まるだろう。チャンスが到来している」(苗村氏)

空中ディスプレーが本格離陸へ
空中ディスプレーが本格離陸へ
新型コロナ禍での非接触ニーズを受けて20年後半ごろから社会実装が始まった。現在は黎明(れいめい)期に当たる。今後は非接触入力のインターフェースを中心に、サイネージやエンターテインメント端末などに用途を拡大していくと見られる。(写真:左はJVC、中央は大日本印刷)
[画像のクリックで拡大表示]