米Apple(アップル)は2022年3月8日(米国時間)に発表イベントを開催し、Apple TV+、iPhone 13の新カラーバリエーション、iPhone SE、iPad Airなどの新製品を発表したが、今回はイベント後半に紹介された新プロセッサー「M1 Ultra」と新製品「Mac Studio」の2つにフォーカスして、Appleのプロセッサー戦略を考えてみたい。
2つのダイを接続して2倍のパフォーマンスを実現
2021年末に14インチのApple Silicon版MacBook Proを購入したばかりの筆者だが、やはり今回のイベントで気になるのは最新iPhone SEやiPad Airよりも「M1 Ultra」だ。Mac Studioは「M1 Max」または「M1 Ultra」のいずれかを選べるが、逆にM1 Ultraを選択可能な製品はMac Studioしか現状で存在しない。現時点ではAppleがリリースする「M1」シリーズでの最高峰に位置する製品と呼べるだろう。
M1 Ultraの特徴は従来のM1シリーズ最高峰だったM1 Maxのダイを2つつなぎ合わせ、1つの巨大なSoCとして扱っている点にある。
従来、ダイを封入したパッケージを1つのプロセッサーとして扱い、プロセッサー同士を「インターコネクト」という高速通信技術で接続してシステム全体のパフォーマンスの底上げするマルチプロセッサーの仕組みがサーバーや高性能なワークステーションでは用いられてきたが、発熱や消費電力、レイテンシーなどの“ペナルティー”が存在し、この点がボトルネックになりやすかった。
同様の機能を実現するために、マルチプロセッサーで用いられるのと同等のトランジスターを盛り込んだ1つの巨大なダイを構築すれば、これらのペナルティーに関する問題はある程度解決するものの、ダイのサイズの拡大は半導体製造における歩留まりを悪化させるため、コスト的には現実的ではないことが多い。
その中間の解決策として近年のHPC領域で用いられているのがMCM(Multi Chip Module)という方式で、コンピューターの基板上に複数のプロセッサーを並べるのではなく、ダイ同士を内部で直接接続させて1つのパッケージに封入してしまい、見かけ上は1つの巨大なプロセッサーに見えるようにする。
M1 UltraもまたこのMCMの延長線上にあるアイデアを採用している。2021年にM1 Maxが発表された際には触れなかった隠し機能として「UltraFusion」という技術を用い、ダイ同士を2.5TB/sの超高速なインターコネクトで直結させ、一般的なMCMにおけるインターコネクトの4倍近い速度を実現しているとAppleは説明している。
結果として、M1 Ultraは見かけ上、2つのM1 Maxのインターコネクト部を結合させた形状となっており、トランジスター数はM1 Maxのちょうど2倍に当たる1140億個、CPUのコア数は20個、GPUのコア数は最大64個とそれぞれちょうど2倍になっている。
またM1 Maxで拡張可能なUnified Memoryの最大容量は64GBだったが、Ultraではやはり2倍の128GBとなっている。メモリー帯域も400GB/sから800GB/sと2倍になっているが、これはM1 UltraにおけるM1 Maxのダイがそれぞれ異なるUnified Memoryに接続され(1つのダイ当たり最大64GBのメモリーモジュールが接続される)、両方合わせて同時アクセス可能なメモリーの帯域が2倍になるためだ。