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 岸田政権の目玉政策「デジタル田園都市国家構想」やデジタル庁の設立を機に、自治体のDX(デジタル変革)が再び脚光を浴びている。政府はデジタル田園都市国家構想で5.7兆円の予算を計上。「誰一人取り残さない」を旗印に、全ての自治体の業務とシステムを見直す。とはいえ、ベンダーロックインをはじめとする調達の問題は未解決のまま。人材育成やデータ連携の在り方なども課題が残る。2001年のe-Japan戦略以来、20年進まなかった自治体のデジタル化。積年の課題を乗り越え、今度こそDXを進められるのか。

 政府と自治体の官公庁の98.9%が「ベンダーロックイン」の可能性のある取引をしたことがある――。

 公正取引委員会が「ベンダーロックイン問題」に初めて斬り込んだ。2022年2月8日に発表した「官公庁における情報システム調達に関する実態調査報告書」は、IT業界の長年の課題を浮き彫りにしたとして話題を呼んだ。国の官庁や自治体の役所が情報システムの保守・改修・更改などの際に、現在利用している情報システムを取り扱う既存ベンダーと再度契約したことが「ある」と回答した官公庁は1000に上り、有効回答数1011に対して98.9%を占めた。

 再契約した理由(複数回答可)は「既存ベンダーしか既存システムの機能の詳細を把握できなかったため」が48.3%。「既存システムの機能や技術に関わる権利が既存ベンダーに帰属していたため」が24.3%だった。

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官公庁が既存ベンダーと再度契約することとなった事例。ベンダーロックインの可能性がある取引をしたことがある官公庁が98.9%に上った
官公庁が既存ベンダーと再度契約することとなった事例。ベンダーロックインの可能性がある取引をしたことがある官公庁が98.9%に上った
(出所:公正取引委員会)
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 ベンダーロックインを回避するために公取委が官公庁の実態調査をしたのは今回が初めて。「行政のデジタル化が喫緊の課題となるなか、官公庁の情報システム調達の在り方について独占禁止法上の考え方を示すとともに、競争政策の観点から提言するのが目的だ」と公取委の小室尚彦調整課長は話す。

過去20年進まなかった自治体DX

 公取委があぶり出した官公庁におけるベンダーロックインの実態。実は日本の自治体におけるもう1つの懸案と表裏一体を成している。それがデジタル技術を駆使した自治体の業務改革、いわゆる自治体DX(デジタル変革)である。デジタル人材の不足に各部門間の連携不足によるバラバラな発注と、根本にある要因は同じだ。公取委が指摘したベンダーロックインの深刻さは、自治体DXがいまだに進んでいない実態を示唆している。

 岸田政権が目玉政策の1つに据える「デジタル田園都市国家構想」。地方が抱える課題をデジタル実装で解決する同構想を、「新しい資本主義」実現に向けた成長戦略の最も重要な柱と政府は位置付ける。

 高速通信規格「5G」やデータ連携基盤といったデジタル基盤の整備、地方で活躍する官民のデジタル人材の育成や確保、地方の課題解決に向けたデジタル活用、誰一人取り残さない改革に向けたデジタル推進委員の設置…。政府はこうした施策について2021年度補正予算と2022年度当初予算で総額5.7兆円を計上した。

デジタル田園都市国家構想関連施策の全体像
(出所:内閣府資料を基に日経クロステック作成)
デジタル田園都市国家構想関連施策の全体像
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 「成長戦略の柱」というと全国で自治体のデジタル化への機運が高まっているかのような印象を受けるが、実態は逆だ。

 2021年12月、企業などのDXの研究や支援を手掛けるデジタルトランスフォーメーション研究所は「8割ほどの自治体がDXに未着手である」とする調査報告書を発表した。全国の都道府県、市区町村など1788の自治体にアンケート票を配布して実施し、有効回収数は280件だった。

 新型コロナウイルス対策では日本の行政におけるデジタル活用の遅れが浮き彫りになった。そうした「デジタル敗戦」の反省を踏まえて2021年9月にデジタル庁が発足。国のみならず自治体の情報システムの整備・管理の基本方針を策定する役割を担う。

 2001年に策定されたe-Japan戦略は「電子自治体」を重点分野の一つとし、2003年度までに「電子情報を紙情報と同等に扱う行政を実現」するとした。だが「過去20年、自治体のデジタル化は本質的には全く進まなかった。結果として、自治体の業務効率化が進まず、職員に負担をかける構造が残されてきた」(武蔵大学の庄司昌彦教授)。

 「2040年問題」。1971~75年に生まれた団塊ジュニア世代が2040年に65歳以上になり、日本の少子高齢化がピークを迎える問題のことだ。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると20~64歳の就労人口は2040年には5543万人と、2019年より2割減少する。21年間で1400万人近く減り、日本は深刻な労働力不足に襲われる。自治体は民間企業と労働力を取り合うことになる。「今の人手に頼るやり方を続けていては、自治体の行政機能やサービスを維持できなくなる」と庄司教授は警鐘を鳴らす。