日本精工(NSK)は、電気自動車(EV)など電動車の駆動用モーターの高速回転化に寄与する玉軸受の設計に、トポロジー最適化(位相最適化)を適用した(図1)*1。
トポロジー最適化は、シミュレーション技術の1つで、部品の中で強度への寄与率が低い部分は不要であるとみなし、そこを少しずつ除去する計算を繰り返す。初期形状を与えてこれを変形していき、必要最小限の材料を残した形にする。人間の設計者には思いもよらない複雑な形状を、ソフトウエアによって導き出し、設計形状を出せるメリットがある。
トポロジー最適化で人には困難な設計を
NSKはこの設計手法を2021年3月に発表したdmn(ピッチ円直径dm×最高回転数n)で180万を誇る、軸受の保持器設計を適用した*2。内径35mmの玉軸受の場合で3万8000rpmまで高速回転化できる。
玉軸受を高速で回転させると、玉を保持する冠型の保持器が遠心力で変形し、外輪やシールなどと接触して発熱する(図2、3)。この課題を解決するのにトポロジー最適化を活用した*3。
同社によると、軸受の設計にトポロジー最適化技術を適用するのは「世界で初めて」(同社)という。今回発表した高速回転軸受は第3世代に当たり、第2世代モデルの保持器に比べて変形量は32%削減。同時に44%軽量化した。また、トポロジー最適化を適用して設計期間を抑え、前モデルを発表した20年3月からわずか1年で新モデルの開発にこぎつけた。
先述のように、軸受を高速で回転させると遠心力で、保持器の円環部から円環の中心軸方向に伸びた爪が花びら状に開いてしまう。すると、花びら状に変形した保持器の一部が外輪やシールに接触して異常発熱し、焼き付く危険性がある。同社技術開発本部 コア技術研究開発センター デジタルツイン推進室グループマネジャーの千布剛敏氏は、「高速化に耐えるためのボトルネックの1つは、保持器だった」と話す。
高速化に対応した第2世代でも、保持器の変形を抑制する工夫は加えている。ただし、人間の設計者が、根元部分の肉厚を調整して剛性を上げるといった設計で変形量を減らした。しかし、「剛性を高めて変形を抑える方策には限界を感じていた」(千布氏)。そこで目を付けたのが、トポロジー最適化である。NSKでは既に、ステアリング部品の設計でトポロジー最適化を使った例があった。