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 健康診断などに必ずといっていいほど組み込まれている血液検査。血液の位置付けはまさに検体の王道と言っても過言ではない。しかし、注射針を刺すことによる痛みや血を抜くことそのものが苦手な人が多いのも事実だ。患者負担を減らすべく微量の血液による検査を目指し、各社が技術を競っている。血液1滴でアレルギーやアルツハイマー病、がんなどが検出できる未来が近づいている。

血液検査は確立された手法として浸透している
血液検査は確立された手法として浸透している
(出所:123RF)
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 血液は体重の約13分の1を占めるといわれており、液体部分の血漿(けっしょう)と、酸素を運ぶ赤血球や免疫機能を担う白血球などの血球に大別される。血液は全身をめぐって栄養や老廃物など様々な物質を運ぶため、全身の情報を反映した検体として重宝されてきた。

 一方で短所もある。まず挙げられるのは血液採取には注射という侵襲を伴うことだ。また、様々な物質が含まれていることの裏返しで、不純物が多いとも言える。こうした課題を解決するには採血量を少なくすることで侵襲を低くし、限られた検体の中から目的のバイオマーカーを検出する技術が必要になる。

子供の負担を少なく

 血液の微量化による検査の恩恵が大きい疾患の1つがアレルギーだ。アレルギー検査は子供の頃に受けることが多く、多量の採血は大きな負担となるため微量の血液による検査法の確立が望まれていた。また、アレルギーを引き起こす原因物質のアレルゲンは種類が多いため、一度の検査で多数のアレルゲンをテストできればトータルでの検査回数を減らすことができる。

 東レが2021年4月に発表したバイオチップは、血液1滴(20マイクロリットル)から最大約100種類の物質に対するアレルギー検査ができる。アレルギー検査では免疫物質でアレルゲンと特異的に結合する血中のIgE抗体を測定する。同社によると、微量血液から複数のアレルゲンを検査する場合、血中のたんぱく質や細胞などによる妨害のため正確な測定が難しいという課題があったという。

微細な柱状構造などこれまで培ってきた技術が応用されている
微細な柱状構造などこれまで培ってきた技術が応用されている
(出所:東レ)
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 こうした課題を解決するのに使ったのは素材メーカーとして培ってきた技術だ。バイオチップ表面は微細な柱状構造が施されている。それぞれの柱の頂点に異なるアレルゲンを載せることで同時に多くのアレルギーを検査できる。またチップの素材には、シグナルを読み取る際の蛍光ノイズを低減する独自素材の黒色樹脂基板を応用している。

 チップに血液成分が付着するのを防ぐために使われているのが低ファウリング高分子材料技術だ。血液透析患者用の人工腎臓開発で培った技術で、血液中の老廃物を除去する分離膜をこの高分子材料でコーティングすることで血液成分の付着によって起こる目詰まりを抑制することができる。この素材をチップに応用することで、1滴というごくわずかな血液によるアレルギー検査の開発に成功した。2022年度中の製造販売承認申請を目指しているという。

 血液1滴によるアレルギー検査では、理化学研究所と日本ケミファが開発した「ドロップスクリーン」が2020年2月から販売されている。41種類のアレルゲンを同時に検査できることや、30分程度という短い測定時間のため1回の受診で結果まで分かるのが特長だ。

 ドロップスクリーンのコア技術として使われているのが理研の研究チームが開発した「何でも固定化法」だ。光に反応する物質を固定したい有機化合物と混ぜ、基板に載せて光を当てることでラジカル架橋反応を起こして基板上に固定される。これを応用することで、1枚のチップに様々なアレルゲンを固定することに成功した。チップの構造をすり鉢状にしたり、装置内で揺らしたりすることで、微量の検体をチップ上に満遍なく行き渡らせるための工夫も施されている。廃液タンクが不要な構造のため、装置もA3用紙ほどと従来に比べて大幅な小型化を実現した。