全2941文字
PR

 「震度5強で、これだけの数の宅地被害は見たことがない」――。

 2022年3月の福島県沖地震で、震央位置から90km以上離れた仙台市において300件程度の造成宅地の被害があることが、日経クロステックの取材で明らかになった。

2022年3月16日の福島県沖地震で崩れた擁壁。仙台市太白区緑ケ丘4丁目付近。家屋がなかったために人的被害は生じなかった(写真:日経クロステック)
2022年3月16日の福島県沖地震で崩れた擁壁。仙台市太白区緑ケ丘4丁目付近。家屋がなかったために人的被害は生じなかった(写真:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 今回の地震の最大震度は6強。一方で、仙台市のK-NET仙台での震度は5強だった。同市では11年の東日本大震災でも多数の盛り土造成地の被害が報告されている。ただし当時の震度は6強だった。地盤の専門家などによると、震度5クラスの地震でこれほどの被害数の報告は珍しい。

 福島県沖地震の後、仙台市内の住民から報告のあった宅地被害件数は22年6月30日時点で299件。市職員が現地を確認し、擁壁や宅地地盤、法面(のりめん)、自然斜面などの被害状況を「危険度判定票」に基づいて分類したところ、以下のような内訳になった。特に危険で避難や立ち入り禁止措置が必要な「大被害」が39件、制限付きの立ち入りが可能な「中被害」が102件、当面は防災上問題のない「小被害」が158件だ。

危険度判定票に基づいて判定した被害状況の内訳。2022年6月30日時点(資料:仙台市)
危険度判定票に基づいて判定した被害状況の内訳。2022年6月30日時点(資料:仙台市)
[画像のクリックで拡大表示]

 ただ被災した場所によっては、住民から「東日本大震災のときよりも被害はひどかった」という声が上がっている。

 例えば、太白区緑ケ丘4丁目で生じた擁壁の崩れが象徴的だ。家屋がない盛り土造成地の擁壁が東日本大震災では崩れなかったのに、今回の福島県沖地震では崩れたのだ。さらに、Googleストリートビューを見ると、震災当時は家屋が立っていた。つまり、家屋がない現在は当時よりも上載荷重が減るため、地震の加速度でより変動しづらい宅地であったにもかかわらず、崩れたというわけだ。

仙台市太白区緑ケ丘4丁目付近であった擁壁崩れ。隣に見えるのは2011年の東日本大震災で被災し、アンカーで対策を講じていた擁壁。今回の地震では無被害だった(写真:日経クロステック)
仙台市太白区緑ケ丘4丁目付近であった擁壁崩れ。隣に見えるのは2011年の東日本大震災で被災し、アンカーで対策を講じていた擁壁。今回の地震では無被害だった(写真:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 被害は市内全域で、丘陵地を中心に報告されている。仙台市都市整備局建築宅地部宅地保全課によると、特に太白区の八木山地区、青葉区の折立地区など、丘を造成してできた団地の周辺で目立つ。一方で、海側の宮城野区や若林区ではほほゼロだった。「割と新しくできた団地のせいか、同じような丘陵地でも海側の区からは問い合わせが少なかった」と、仙台市建築宅地部の森谷直樹・宅地保全課長は話す。

 谷地形を埋め立てた「谷埋め盛り土」や切り土と盛り土の境界部での被害報告がほとんどを占めるという。

東日本大震災における被災宅地の分布図。2022年3月の福島県沖地震では、震災で被災した地区での被害が目立った(資料:仙台市)
東日本大震災における被災宅地の分布図。2022年3月の福島県沖地震では、震災で被災した地区での被害が目立った(資料:仙台市)
[画像のクリックで拡大表示]

 気になるのは、なぜこれほど数が膨れ上がったのかだ。

 仙台市は福島県沖地震の直前に、宅地擁壁の支援制度を開始したため問い合わせ数が激増したとみている。支援を受けられる可能性があるかもしれないと感じた市民が、少しでも損傷があれば市に連絡。問い合わせがあった件数は必ず被害の1つにカウントするため、結果的に被害件数が増えたというわけだ。ただそれにしても、大被害や中被害の数もそれなりに多い。

2022年3月に仙台市が始めた「宅地擁壁の支援制度」。被災した擁壁などを新設する工事費の一部を助成する制度の他、専門家を派遣する制度がある(資料:仙台市)
2022年3月に仙台市が始めた「宅地擁壁の支援制度」。被災した擁壁などを新設する工事費の一部を助成する制度の他、専門家を派遣する制度がある(資料:仙台市)
[画像のクリックで拡大表示]

 一方で、過去に起こった同程度(震度5クラス)の地震での宅地被害件数と比較すれば、今回の地震による被害が多かったのかを検証できる。ただしこちらについて仙台市建築宅地部は、「過去の同程度の地震による宅地被害の件数は記録がほとんどない」と回答した。

 一応、21年2月に発生した福島県沖地震による被害件数は残っていた。震度5弱を観測した仙台市では、被害件数は6件だったという。