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 DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展で存在感を増すGoogle Cloud。これを採用した、クラウドネイティブなアーキテクチャーのシステム構築とはどのようなものか。架空のドライブレコーダーメーカーのIoT(インターネット・オブ・シングズ)・機械学習システムを想定し、具体的なシステム構築方法を示す。

IoT・機械学習システムの構築シナリオ

 C社はドライブレコーダーの開発・製造・販売を行う専業メーカーである。一般車載用の標準モデルをはじめ、オートバイや自転車に搭載する二輪車モデル、夜間でも鮮明な映像が撮影できる暗視モード搭載モデル、振動補正機能を備え耐久性に優れた工事車両モデルなど多様な製品ラインアップを誇る。

 近年は提携企業と協業し、新たなビジネスの創出にも積極的に取り組んでいる。現在SIMカードを搭載した通信型ドライブレコーダーを開発しており、並行して本製品を活用した新たなビジネスの検討と専用システムの開発を提携企業と進めている。PoC(概念実証)や実用化に向けた検討が進んでいるプロジェクトは次の通りである。

 通信型ドライブレコーダーの利用を前提とした新しい保険商品を共同開発する。収集したデータから交通事故のリスクを数値化することで翌年度の保険料の割引率を算出する。交通事故発生時にはオペレーターが動画を確認することで、適切かつ迅速な事故対応を行う。

 撮影した動画および運転特性データをC社が収集し、機械学習モデルを活用して動画や運転特性データを分析する。分析結果はドライバーの評価やフィードバック、社内教育に用いる。また運転席にアラート通知用ボタンを設置し、乗客とのトラブルや事件に巻き込まれた際には本部向けにアラートを発報する機能を搭載する。アラートを受領した本部の担当者は、車両情報と車内撮影動画を確認することで、警察に通報したりタクシー無線でドライバーへ適切に指示したりできる。

 C社は市場シェアを獲得するために、製品やサービスを競合他社よりも早く市場に投入することが重要と考えている。今回のPoCや検証はスモールスタートで開始し、大幅な改修をすることなくスムーズに本番導入できるようなアーキテクチャー設計にしたいと考えている。

 そこでC社はパブリッククラウドが提供するサーバーレスサービスやマネージドサービスを積極的に活用することで、インフラの設計や構築、本番リリース時のアーキテクチャーの見直しにかける工数を削減できると考え、パブリッククラウドを採用する方針とした。今回のプロジェクトは機械学習モデルを用いた動画や運転特性データの分析が鍵となるが、現状C社には機械学習に精通した人材が不足している。そのため、機械学習関連のサービスが充実しており、また専門知識がなくても機械学習を利用できるサービスを提供しているGoogle Cloudを採用した。

 今回のシステムは(1)機械学習を用いた分析、(2)ドライブレコーダーからのデータアップロード、(3)サムネイル生成などのイベントトリガー処理、(4)ウェブアプリケーションという大きく4つの機能で構成されている。これらの機能を実現するためにサーバーレスサービスやマネージドサービスを優先的に採用した。全体構成のイメージは次の通りである(図1)。

図1 今回構築するIoT・機械学習システムの完成形の全体像。説明を分かりやすくするため最初に示す
図1 今回構築するIoT・機械学習システムの完成形の全体像。説明を分かりやすくするため最初に示す
(出所:野村総合研究所)
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 ここからは各機能の内容と採用したアーキテクチャーについて、サービス選定のポイントを交えて解説する。