熊本県内の災害復旧で、専門工事会社が複数工区の道路擁壁工事に取り組む。二次製品のプレキャストパネルを使って現場作業を削減。急斜面で作業ヤードが限られた難条件で施工の効率化につなげた。
2020年7月の豪雨で10本の橋が流失するなどの被害が生じた球磨川。国土交通省九州地方整備局八代復興事務所は、熊本県内を流れる河川沿いの国道219号や県道などの本復旧事業を直轄代行で進める。22年冬には複数の橋の下部工事に着手するなど、最盛期を迎えている。
事業は複数の工区に分かれ、県内の建設会社が元請けとして数多く参画する。洗掘などの被害を受けた河川沿い道路の復旧では、作業ヤードが限られた現場が少なくない。そうした複数の現場で道路擁壁工事を手掛けるのが日特建設だ。
熊本県球磨村神瀬地区にある国道219号の現場では、味岡建設(熊本県多良木町)の1次下請けとして延長168m、高さ1.5~5mの擁壁を施工している。味岡建設土木部で現場代理人を務める土屋元行氏は「法(のり)面や擁壁で実績と技術的知見が豊富だ」と語る。
この現場では川幅を狭めず複数工区の工事用車両の通行を確保しながら擁壁を更新し、道路を一部かさ上げする。概略設計では勾配が生じる重力式擁壁を避け、H形鋼の親杭(ぐい)を建て込んでその間に横矢板を設置する工法が候補に挙がっていた。
だがH形鋼周辺の硬岩掘削や現場打ちコンクリートの型枠作業、配筋作業によって、工期が延びる恐れがあった。そこで発注者は「親杭パネル工法」を採用。鉄筋コンクリート製のプレキャストパネルを親杭のH形鋼に刺すように設置し、擁壁を立ち上げる。二次製品を使うため材料検査も工場で済む。日特建設によると、この現場では工期を1~2カ月短縮できる見込みだ。
パネルの基本寸法は幅1.99m、奥行き0.7m、高さ1m。最下段のパネルを置いて位置と傾きを調整すれば、後は積み上げるだけでよい。2段目からはパネル1個当たり約10分のペースで設置できる。
施工手順としては、まずH形鋼の上からパネルを挿入。横1段に並べる。パネルの位置を合わせた後、パネルとH形鋼との隙間にモルタルを充填する。1日で設置できるパネルの数はモルタル充填まで含めて10個程度。高さ1m分の擁壁を延長20mにわたって施工できる計算だ。一連の作業を3、4人で実施する。